アメリカにおける多様性と包摂性:バイデン政権下の動きと今後の展望

前回に続いて、DEIを取り上げます。DEIに大きな影響を与えたのが、バイデン政権です。この政権が与えた影響をご紹介しましょう。

目次

バイデン政権下で強化されたDEI

前回もご紹介しましたが、DEIは、単に異なる人々がいるという状態ではなく、誰もが平等な機会を得て、それぞれの能力を最大限に発揮できる社会を目指す概念です。バイデン政権は、就任以来、このDEIを「国家の重要課題」として位置付け、積極的に取り組んできました

連邦政府機関におけるDEIの強化、教育におけるDEIの推進、企業への働きかけなど、多岐にわたる政策が実施された結果、アメリカの社会全体でDEIに対する意識が高まり、企業や組織におけるDEIの取り組みが活発化しました。

企業におけるDEIの取り組み

政治の影響を受け、企業の取り組みも変わりました。

たとえば、化粧品業界のブルーマーケリーや、その親会社のメイシーズといった大手企業は、DEIの観点からマイノリティが経営する企業からの調達を義務化するなど、積極的な取り組みを行ってきました。マーケティングにおいても同様で、DEIを意識した取り組みが進められています。

これらはバイデン政権下で見られるようになった動向であり、いかにバイデン政権がDEIを推進したかがわかるのではないでしょうか。

DEIが抱える課題

DEIの推進は、アメリカ社会に大きな変化をもたらしましたが、同時にさまざまな課題も浮き彫りになりました。バイデン政権のDEI政策は、過度にマイノリティを優遇しているとの批判も根強くあります。

たとえば、フォーチューン500(アメリカのビジネス誌『フォーチュン』が毎年発表している、売上高に基づいたアメリカの上位500社のランキング)に載る企業の経営陣は、大半が白人。黒人やアジア人といった人たちはほとんど見かけないのが現状です。

また、DEIへの取り組みをあまりにも優遇することで、他の重要な施策の予算が削減されたり、白人男性が不利益を被るというケースも出ています40歳以降の白人男性が失業する割合が高くなったのは、DEIの影響と見る人もいます。

ブラック・ライブズ・マター運動をきっかけに、人種間の対立が再燃し、アジア人ヘイトクライムなど新たな問題も発生しています。人種間の不平等、アジア人へのヘイトクライム、白人優位意識など、歴史的な背景や社会構造に根ざした問題は容易に解決できません。

トランプ政権以降のDEIの行方

次のトランプ政権は、DEIの推進には批判的です。トランプ政権下では、DEI関連の予算が削減され、マイノリティ企業への支援も縮小されるでしょう。そのため、DEI関連予算で業績を伸ばしたマイノリティ企業は、成長が止まる可能性がきわめて高いです。

僕自身は、DEIの考え方は正しいと思います。しかし、社会や生活の安心と安全を守るための取り組みに良くない影響を及ぼす予算配分には同意できませんし、それを振りかざして補助金を取るようなビジネスは、成り立たなくなるでしょう。

DEIという精神は尊重しつつも、平等な立ち位置をキープし、世界的にリスペクトされる企業にすることが、これからの経営者に求められるはずです。

Takeshi Nobuhara
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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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