前回の記事では、巨大IT企業「マグニフィセント・セブン(通称「M7」)」が現代経済に与える絶大な影響力についてお話ししました。M7は市場のトレンドを作るだけでなく、ビジネスの運営においても、われわれ中小企業とは異なるアプローチを取っています。
今回は、M7のような大手グローバル企業がどのようにして税金を「賢く」抑え、それが僕たち中小企業にどのような「不公平」をもたらしているのか、その実態に迫ります。これは、海外進出を考える起業家にとっても、非常に重要な視点です。
法人税率のトリック、大企業が享受する「抜け道」
まず、米国の法人税率の変遷を見てみましょう。2018年のトランプ政権下の税制改革により、連邦法人税率は35%から21%へと大幅に引き下げられました。
しかし、ここで注目すべきは、大手グローバル企業、特にM7のような企業が実際に支払っている税率です。M7は、様々な法的に認められた制度を活用することで、実質的に支払う税率(これを「実効税率」と呼びます)を10〜18%程度に抑えています。
具体的には──
◆研究開発費控除(R&D Tax Credit)
革新的な技術開発に多額の投資をしている企業が利用できる控除です。
◆設備投資に対する高減価償却費・特別控除
新しい工場や設備に投資した際に、費用を早期に計上できる制度です。
◆海外子会社との利益移転スキーム(タックスヘイブン活用)
税率の低い国に子会社を設立し、そこに利益を移すことで全体の税負担を軽減します。
過去の繰越損失による課税所得の圧縮: 過去に発生した損失を現在の利益と相殺し、課税対象となる所得を減らします。
特に、Teslaは2023年に支払うべき税金よりも控除やクレジットが上回り、実質的に納税額がマイナス(タックスベネフィット)になったと報じられました。これは、M7が膨大な研究開発投資を行い、それに対する控除を最大限に活用している結果と言えるでしょう。
これらの大手企業は、多額の費用を投じて優秀な弁護士、会計士、ロビイストといった専門家を雇い、法制度や税制の変更をいち早く捉え、最適なビジネス戦略を構築しているのです。結果として、高額な利益を上げながらも、低い実効税率を実現し、米国内での納税額を抑えています。
中小企業が直面する「不公平」と起業家が取るべき視点
一方で、僕たち中小企業やスタートアップは、このような複雑な税務戦略をフル活用することが非常に難しいのが現状です。専門家を雇うコストも、大手企業のように潤沢にはかけられません。結果として、大企業に比べて相対的に大きな税負担を強いられ、競争上の不利益を被っているという指摘が多く聞かれます。
「不公平な世の中」という声が上がるのも当然かもしれません。本来、利益を上げたら払うべき税金を、一部の大企業が法的な抜け穴を使って支払っていない、という見方も存在します。
さらに、米国の州所得税(State Income Tax)にも注目すべき点があります。
フロリダ州、テキサス州、ワシントン州など、一部の州では所得税がゼロです。このため、企業が本社を置く場所を選ぶ際に、税制優遇が大きな考慮事項となることもあります。これは、われわれ起業家にとっても、どこにビジネスの拠点を置くかを考える上で重要な情報になります。
中小企業が、この状況でできることは何か?
税務の専門家との連携
複雑な税制を全て理解する必要はありませんが、信頼できる税理士や会計士に相談し、自社で活用できる控除や優遇制度を最大限に利用することが重要です。
情報収集の徹底
税制は常に変化します。最新の情報を入手し、自社のビジネスにどう影響するかを常に把握しておく必要があります。
戦略的な拠点選び
米国内での事業展開を考える場合、州ごとの税制の違いを考慮することは、長期的なコスト削減に繋がります。
税制は複雑ですが、知ることで対策を立てることは可能です。起業家として、常に情報収集と戦略的思考を怠らないことが、ビジネスを守り、成長させる上で不可欠だと言えます。
次回の記事では、グローバル企業がどのようにサプライチェーンを構築し、地政学リスクに対応しながらコストを最適化しているかという、さらに高度な戦略について掘り下げてみましょう。
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