前回、そして前々回の記事で、マグニフィセント・セブン(通称「M7」)の影響力や、大企業が賢く税金を抑える戦略について見てきました。
今回は、グローバルビジネスにおけるもう一つの重要な側面、「サプライチェーン戦略」に焦点を当てます。
大企業は、単にコスト削減のためだけでなく、地政学的なリスクに備えるためにも、非常に緻密なサプライチェーン戦略を構築しています。海外進出を考える起業家やスタートアップ経営者にとって、M7の戦略から学べることは非常に多いはずです。
コストとリスクを制する多国籍サプライチェーンの設計図
現代のグローバル企業は、貿易における関税(タックス)によるコスト増のリスクに対し、多角的かつ構造的な対策を講じています。
その最たる例が「サプライチェーンの多国籍分散化」です。これは「チャイナプラスワン戦略」とも呼ばれ、中国一極集中を避け、ベトナム、メキシコ、インドなど、他の国々へ生産拠点を分散させる動きを指します。
例えば、AppleはiPhoneの一部生産をインドやベトナムへ移行しています。これは、特定国での生産中断リスクを低減し、サプライチェーンの強靭性を高めるための重要な戦略です。
他にも、以下のような戦略が採用されています。
関税コードの最適化と再分類
同じ製品でも、関税コードの分類が異なると税率が変わることがあります。専門家チームを活用し、合法的に最も低い税率のコードを適用することで、コストを削減しています。
原産地証明(Rules of Origin)を活用したFTA(自由貿易協定)の活用
米国は多くのFTAを締結しており、その条件を満たせば、輸出入される製品の関税が免除されます。
関税保税プログラム(Foreign-Trade Zones, Bonded Warehouse)の活用
米国内の「フリー・トレード・ゾーン(FTZ)」や「保税倉庫」に製品を一時保管することで、関税支払いを延期・回避できます。製品が再輸出される場合は、関税が発生しません。
税務・法務チームと政府交渉、ロビー活動の連携
貿易摩擦時など、政府との交渉やロビー活動を積極的に行い、通商政策の緩和を働きかけることで、自社に有利な環境を整えます。
これらの動きは、単なるコスト削減だけでなく、米中関係の緊張やインドの政治変化など、地政学的なリスクに対応し、ビジネスの安定性を確保するための重要な戦略なのです。
サービス型ビジネスへのシフト、関税の影響を回避する新たな潮流
もう一つ注目すべきは、ビジネスモデルの構造そのものを工夫することで、関税の影響を回避する動きです。製造物には関税がかかるのに対し、クラウドサービスや広告などのサービスは、原則として関税がかかりません。
このため、Google、Meta、Microsoftといった企業は、製造業に比べて構造的に関税の影響が小さいビジネスモデルを持っています。M7は物理的な製品の輸出入に依存せず、デジタルサービスを通じて世界中で収益を上げています。
起業家やスタートアップ経営者の皆さんも、自身のビジネスモデルを構築する上で、この「サービス型」という視点を取り入れることが重要です。物理的な製品に縛られず、情報、知識、データ、プラットフォームといった「無形資産」を価値の源泉とするビジネスは、関税リスクだけでなく、物流コストや在庫リスクも低減できます。

例えば、SaaS(Software as a Service)企業やオンライン教育プラットフォーム、コンサルティングサービスなどは、国境を越えてサービスを提供しやすく、グローバル展開における障壁が低いと言えます。
一方で、こうした分野は参入障壁が低いため競争も激しく、プロダクトの独自性やブランド力、顧客との関係性といった差別化要因が、これまで以上に重要になっています。
さらに留意すべき点は、「サービスには関税がかからない」という前提自体が、今後揺らぐ可能性が出てきたことです。
トランプ大統領は「製造物には関税、サービスは免除」という従来の貿易ルールの見直しに着手しており、ソフトウェアやクラウドサービスといった「デジタルサービス」や「クラウド基盤」にも関税を課す方針を示しています。
これは、もともと欧州諸国やカナダが導入したデジタルサービス税(DST)への対抗措置としての側面が強い施策ですが、こうした動きによって、今後はデジタルビジネスであっても関税や規制の影響を受けるリスクが一層高まると考えられます。
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