ロサンゼルス、ウェストハリウッド。きらびやかなエンターテイメントの世界の中心に、60年以上にわたって音楽の歴史そのものを刻み込んできた伝説のホテルがあります。その名は「サンセット・マーキス」。
先日、僕はこのホテルの現オーナー社長であるマーク・ローゼンサール氏から、ある特別な試写会にご招待いただきました。それは、このホテルの知られざる歴史と、ホテルを築き上げた父子の物語を追ったドキュメンタリー映画『If These Walls Could Rock』のプレミア上映です。
今回は、その貴重な体験をもとに、世界中のミュージシャンから「聖域」として愛され続けるサンセット・マーキスの魅力と、映画が描き出す感動的な物語についてお話ししたいと思います。
LAの伝説が生まれる場所、サンセットマーキスとは
1963年開業のサンセット・マーキスは、「ヴィラ形式」のプライベート空間が特徴。ウィスキー・ア・ゴーゴーやロキシー、トルバドールといった伝説的なライブハウスが立ち並ぶサンセット・ストリップのすぐそばという立地は、まさにLA音楽シーンの心臓部です。
この抜群の立地と居心地の良さが、瞬く間に世界中のミュージシャンの心を掴みました。キース・リチャーズ、レッド・ツェッペリン、ザ・フー、オジー・オズボーン、ジェフ・ベック、シンディ・ローパー、スラッシュらが常連となり、音楽と伝説が生まれる特別な場所となっています。
彼らにとってサンセット・マーキスは宿泊施設という枠を超え、創造性を刺激する「隠れ家」であり、仲間と語らう「聖域」でした。

父と子の物語を描くドキュメンタリー『If These Walls Could Rock』
映画『If These Walls Could Rock』は、このホテルのオーナーであるマーク・ローゼンサール氏が執筆した同名の本が原作です。ホテル創設者の父ジョージと、その経営を引き継ぎ再建した息子マークの物語を描いています。
物語は、プレイボーイ誌の創刊者ヒュー・ヘフナーと父ジョージとの出会いから始まりました。ロサンゼルスに「プレイボーイ・マンション」を建設しようとして資金繰りに困り、悪名高い労働組合のドンであったジミー・ホッファに頼ろうとしたヘフナーに「俺が資金を何とかするから、一緒にやらないか」と、ジョージが持ちかけたのが原点です。
ジョージは実に魅力的な人物で、多くのミュージシャンを惹きつけ、サンセット・マーキスを唯一無二の文化スポットに育て上げました。 しかし、その裏側でビジネスは火の車。気づけば、何百億円という天文学的な借金を抱えていたのです。

危機を救った息子の手腕と、父から子へ受け継がれた魂
会社が崩壊の危機に瀕したとき、すべてを引き受けたのが息子のマーク氏でした。弁護士資格を持つ彼は、巨大な負債と向き合い、巧みな手腕で事業を再建。父が築いた「魂」を守りながら、ホテルを現代的な成功へと導いたのです。
クールで破天荒な父。現実的なビジネスとして再生させた堅実な息子。映画では、対照的でありながら、深い絆で結ばれた親子の物語を感動的に描き出していました。
「サンセット・マーキス」という名前も、実は息子のマーク(Mark)氏の愛称「マーキー(Marky)」に由来しています。「サンセット通りにある、息子の名を冠したホテル」というわけです。
時代を超えて繋がる縁
僕自身、LAのロックシーンに強い憧れを抱いて、高校を卒業した1991年にグレイハウンドバスでアメリカを横断した経験があります。ただ、当時はまだ、このホテルの存在を知りませんでした。
僕がマーク氏と知り合ったのは、今からおよそ8年前のこと。そのご縁で、今回の試写会に招かれ、ローゼンサ ール親子の功績と歴史の証人となれたことに深い感動を覚えています。
サンセット・マーキスは、今も絶大な人気を誇ります。最高級のプレジデンシャル・ヴィラは1泊100万円を超えることもありますが、予約で常に埋まっているというから驚きです。
このホテルが人々を惹きつけてやまないのは、豪華さだけが理由ではありません。その壁一枚一枚に、ロックの歴史と、夢を追いかけた人々の熱い人間ドラマが染み込んでいるからなのでしょう。 もしロサンゼルスを訪れる機会があれば、ぜひこの伝説のホテルの空気に触れてみてください。そこには、時代を超えて輝き続ける本物の物語が息づいています。
Sunset Marquis Hotel & Villas 公式サイト
https://sunsetmarquis.com/
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