「旅行先でも、いつものように心と体を整えたい!」
今の旅行者は「旅先だからこそ、非日常の空間で心と体を整えたい」と望んでいます。
かつてホテルの付加価値といえば、豪華な食事や眺めの良い部屋が中心でした。しかし今は、新たなスタンダードとして「ウェルネス」が急速に台頭しているのです。
今回は、ホスピタリティ業界に訪れている「ウェルネスシフト」の最前線と、その背景にある消費者の意識変化を深掘りします。
なぜ今「ウェルネス」がホテルに求められるのか?
このトレンドは、単なる一過性のブームではありません。ウェルネス観光市場は、2025年までに1兆ドル、2030年には2.1兆ドルへと倍増すると予測される巨大市場です。
この変化の裏には、旅行者の価値観のシフトがあると考えられます。
1. コロナ禍で肥大化した健康意識
パンデミックを経て、多くの人が自宅のトレーニング環境を整え、「おうちジム化」を実行しました。その結果、みんなフィットネスへの目が肥えたわけです。
ホテルの片隅にある、申し訳程度のランニングマシンと古びたダンベルでは、もはや誰も満足しません。「このジム、うちの地下室よりしょぼい…」なんて思われたら、ホテルの評価はガタ落ちです。
2. 予防医療と心身の回復へのニーズ
SNSを覗けば、活き活きした「ウェルネスリトリート」や心穏やかな「マインドフルネス」の投稿がずらり。
人々は観光だけでなく、食事、睡眠、ストレスマネジメントを通じて心身を回復させる「セルフメンテ」の体験を求めるようになりました。もはやウェルネスは、ホテルが生き残るための必須要素なのです。

世界のトップホテルが進める先進的なウェルネス体験
この潮流をいち早く捉えた先進的なホテルブランドは、次々と革新的なサービスを打ち出しています。
【アクティブな旅をサポート】
ランニングアプリ「Strava」との連携や、客室で本格的なトレーニングができる「TRXギア」の貸し出しサービスを提供。旅先でも日常のフィットネス習慣を維持したい、健康意識の高いゲストの心をガッチリ掴んでいます。
【心と体の両面にアプローチ】
瞑想・睡眠導入アプリ「Headspace」と提携し、客室内で気軽に“無”になれる環境を提供。最高級ブランドの「パークハイアット」に至っては、ウェルネスに特化した「ウェルビーイングスイート」を展開しています。
オーガニックスーパー「ホールフーズ」の創業者ジョン・マッキー氏が、新たに立ち上げたのは「Love Life.ウェルネスクラブ」という施設。フィットネスジムに健康診断や長寿医療を融合させた、いわば“健康のテーマパーク”です。
これは、オーガニックブームの火付け役とも言える彼が、「次に見据えるのは“ウェルネス”だ!」と宣言しているのも同じ。次なる時流を物語っています。

多くのホテルが抱える課題と、これからの可能性
一方で、多くのホテルはまだこの変化に追いついていません。画一的なジム設備、ありきたりのアメニティ、そしてゲストのウェルネス習慣をサポートする仕組みの欠如。これらは、期待値の高い現代の旅行者を失望させる原因となっています。
求められているのは、単に「泊まる場所」ではなく「生き方を整える場所」としての役割です。心身ともにリフレッシュし、「本来の自分に戻れる」「なりたい自分に近づくきっかけを得られる」
─そんな本質的な価値を提供できるかどうかが、今後のホテルの成功を左右するでしょう。
この変革期は、日本にとって大きなチャンスです。禅や温泉、自然素材を活かしたケア製品といった日本の“ウェルネス資産”は、世界から見れば宝の山。ホテル業界のウェルネス革命は、まだ始まったばかり。日本の出番は、これからです。

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