僕が息子の学校に「サミュエリ・アカデミー」を選んだ理由について、前回は「多様性」という観点からお話ししました。
今回は、そのユニークな「教育内容」に焦点を当ててみたいと思います。この学校は、デジタル全盛の今だからこそ、あえてアナログな体験を重視しているのです。初めて授業を見学した時、生徒たちが真剣な表情で半田ごてを握り、基板と格闘している姿に、僕は思わず目頭が熱くなりました。
「手触り感」のある学び
サミュエリ・アカデミーの授業で特徴的なのが、「手で考える」プロセスを大切にしている点です。
例えば、デザインの授業では、最新のCADソフトを使うだけでなく、まず自分の手でアイデアをスケッチすることから始めます。鉛筆で線を引き、消しゴムで消し、何度も描き直す。その試行錯誤の過程で、アイデアは磨かれ、形になっていきます。
エンジニアリングの授業では、生徒たちがプリント基板にドリルで穴を開け、一つ一つの部品を自分の手で半田付けしていくのです。まるで日本の町工場のような光景ですが、これこそが物事の仕組みを本質的に理解する上で、何より大切なことだと学校は考えています。
デジタルツールは便利ですが、ボタン一つで完成する過程では、その裏側にある原理や構造を深く理解することは難しい。手を動かし、失敗を重ねることで初めて、本当の理解が生まれるのです。

子どもの「好き」を本物に変える仕組み
この学校は、生徒の興味を実践的な力に変えるユニークな機会も提供しています。
例えば、高校3年生向けのアート・デザインのコースで開かれるコンテスト。その優勝作品は、なんと創設者のサミュエリ氏がオーナーを務めるプロアイスホッケーチーム「アナハイム・ダックス」の公式Tシャツのデザインに採用され、実際に販売されるのです。
想像してみてください。自分がデザインしたTシャツを、何千人ものファンが着て応援している光景を。自分のデザインが商品になるという経験は、子どもにとって何物にも代えがたい自信とモチベーションになるはずです。「自分にもできる」という実感が、次の挑戦への原動力となるのです。 さらに、この取り組みは単なる名誉にとどまりません。実際の製品として市場に出ることで、デザインが持つ商業的価値や、消費者の反応といった、リアルなフィードバックを得ることができます。

「ガマン」の先にある本当の喜び
なぜ、この学校はこれほどまでにアナログな体験や実践的な学びにこだわるのでしょうか。
それは、現代の子どもたちが陥りがちな「即時満足(Instant Gratification)」、つまり「すぐに結果が手に入らないと我慢できない」という状態への処方箋だと僕は考えています。
スマホやゲームは、指先一つで即座に報酬を与えてくれます。しかし、人生の本当に価値あることは、そんなに簡単には手に入りません。手作業は時間がかかり、失敗もします。しかし、その苦労を乗り越えて何かを成し遂げた時の喜び、つまり「遅延満足(Delayed Gratification)」こそが、人を大きく成長させるのです。
最終回となる次回は、この「即時満足」というテーマをさらに掘り下げながら、親である僕自身の、ある大きな問題についてお話ししたいと思います。


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