前回のポストでもお伝えしたように、マクロ経済から見ると、近年のアメリカ経済は一見順調に見えます。しかし、アメリカ経済を支える中小企業の多くは大きな試練にさらされ、状況はますます厳しくなっています。
今回は業界別に中小企業の現状を探ってみましょう。
商業不動産業界
コロナ禍によりリモートワークが普及したことから、オフィス需要は大幅に減少しています。各地のオフィスビルでは空室率が上昇しており、特に深刻なのが、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなどの大都市です。
オフィスビルの所有や運営を行っている中小企業は、家賃収入の減少と金利の上昇により経営状態が悪化。多くの企業が収益の低迷に苦しんでいます。
小売業界
Amazonをはじめとする大手EC企業の台頭とコロナ禍でのライフスタイルの変化により、オンラインショッピングが急速に普及しました。この流れは、中小の小売店舗にとって大きな脅威となり、厳しい経営状況に拍車をかけています。
オンライン販売への移行には、高額なシステム導入やデジタルマーケティング費用、また物流オペレーションの整備が必要です。しかし、中小企業にとって、これらへの投資は容易ではありません。結果として、経営が悪化し、実店舗の閉鎖を余儀なくされる中小企業が増加しています。
特に、衣料品店やショッピングモールに入居しているテナントなどは、この影響を大きく受けているといえるでしょう。

製造業
製造業の中小企業が悩まされているのは、深刻な労働力不足です。特に、熟練工の不足により、生産能力の低下や納期遅延、品質低下といった問題に直面。全米製造業協会(NAM)は、この状況を「経済成長に対する深刻なリスク」と指摘しています。
さらに、コロナ禍以降、サプライチェーンの混乱が長期化し、部品や原材料の調達困難や輸送コストの高騰が常態化しました。この影響で、生産コストが上昇し、中小企業の収益は大きく減少しています。
また、インフレによる原材料費やエネルギー価格の上昇も重なり、製品価格を上げざるを得ない状況に追い込まれていることから、さらに需要が減少するリスクが高まっているのです。
IT業界
IT業界では、大手企業による大規模な人員削減が相次ぎ、IT業界全体の雇用が不安定化しています。この流れは、中小のIT企業にも波及しており、人材の確保や育成が困難になるなど、経営に大きな影響を与えています。
さらに、AI技術の進展により、従来のITサービスの需要が減少することは間違いありません。このような状況下で、中小のIT企業は、AI技術の活用や新たなサービスの開発など、新たなビジネスモデルの構築を迫られています。
レストラン業界
近年のレストラン業界は、さまざまな課題に直面していますが、特に深刻なのがインフレの影響です。食材費や人件費の高騰が利益率の低下を招き、メニュー価格を引き上げると、競争力の高い店舗でなければ客足が遠のきやすく、経営を一層圧迫する状況に陥っています。
また、人材不足によるサービスの質や顧客満足度の低下が止まらないことや、コロナ禍からの客足回復が遅々として進まないことも、レストラン業界が抱える重い課題といえるでしょう。これらの複合的要因が、中小企業の経営をさらに困難にしています。

建設業界
高金利化と住宅価格の高騰により、住宅市場は冷え込む一方です。加えて、建設資材の価格上昇により、建設コストが増加。資金調達が困難なこともあり、中小企業の業績をさらに悪化させています。
また、オフィス需要の減少に伴い、商業施設の建設も低迷。関連産業にも影響が波及しています。これらの要因が複合的に作用し、建設業界全体が厳しい状況におかれています。

中小企業はさらに厳しくなる?
アメリカの中小企業を取り巻く環境について、一概に「厳しくなる一方」と断言することはできません。個々の企業の特性や業界によって状況は大きく異なるため、チャンスがまったくないわけではないからです。
しかし、多くの中小企業が厳しい局面に立たされているのは事実であり、マクロ経済的視点からは窺い知れない部分だといえるでしょう。