全てのグローバル企業を揺るがす法案
前回は、世界経済の新たな火種となりかねない「トランプ税制899条」の概要と、イーロン・マスク氏が激怒する背景。そして、この法案の核心は、米国が不公正と見なす税制を持つ国への「報復課税」だということをお伝えしました。
今回は、この899条が具体的にどのような形でグローバル企業に影響を与えるのか、その衝撃的な3つの柱を詳しく解説します。
これは、日本のトヨタ自動車や、高級ブランドLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)など、米国でビジネスを展開するあらゆる外国企業にとって他人事ではありません。

衝撃の柱①─米国支店への法人税上乗せ
PwC税理士法人の小林氏の解説によれば、報復課税の1つ目の柱は、外国法人が米国に持つ支店への法人税率の引き上げです。
具体的には、現在の米国での法人税率に対し、毎年5%ずつ、最大で15%もの税率を上乗せするというもの。これは、米国で利益を上げている支店にとって、収益構造を根底から覆しかねない壊滅的なインパクトを持つでしょう。
段階的に締め付けが厳しくなるため、企業は長期的な戦略の見直しを迫られることになります。
衝撃の柱②─配当・利子への追加課税
2つ目の柱は、投資家にも直接的な影響を及ぼす内容です。それは、外国の法人や居住者が米国から受け取る配当や利子などの所得に対する追加課税です。
法案では、この源泉税率を毎年5%ずつ段階的に引き上げていくとされています。米国株や米国債に投資している海外の企業や投資家にとって、これは手取り収入が年々目減りしていくことを意味するでしょう。
これまで安定した投資先と見なされてきた米国市場の魅力そのものが、大きく損なわれる可能性があります。
衝撃の柱③─BEAT(ビート)課税の強化
3つ目の柱は、「BEAT(税源浸食・乱用防止税)」と呼ばれる課税制度の強化です。
BEATとは、米国外の関連会社に利子や使用料などを支払い、米国内の所得を意図的に低く見せる節税策を防ぐための制度のこと。今回の法案では、このBEATの対象が大幅に拡大されます。
驚くべきことに、新たに製品や原材料などの「仕入れ」までもが課税対象となり、製造業にまで影響が及ぶことになるのです。これにより、米国内で工場を稼働させている多くの外国企業が、予期せぬ追加課税に直面する可能性が出てきました。
これまでの節税スキームが通用しなくなるだけでなく、サプライチェーン全体の見直しが必要になるかもしれません。

840万人の雇用と企業の悲鳴
この課税強化案に対して、英シェルや独SAPなど200社近い企業が加盟する「グローバル・ビジネス・アライアンス」は強い懸念を表明しました。これらの企業は、899条が発動された場合、米国内で雇用する840万人の生活に影響が出ると警告しています。
外国企業の投資意欲が減退すれば、当然、米国内の雇用は失われるでしょう。トランプ政権は「外国投資を増やす」と主張していますが、この法案はそのビジョンと完全に矛盾していると、多くの関係者が指摘しているのです。
今回は企業活動への影響に焦点を当てました。しかし、899条の恐ろしさはこれだけにとどまりません。
次回の記事では、柱②で少し触れた、ウォール・ストリートが最も恐れる投資家や金融市場への影響について、さらに深掘りします。
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