個人も企業も恩恵大!?トランプBBB法案が描く「税金優遇」と「国内回帰」の未来図

前回の記事で、トランプ大統領が「The One, Big Beautiful Bill(BBB)」法案を次期政権の経済戦略の核と位置づけ、その成立に並々ならぬ意欲を示していることを紹介しました。

今回は、この「BBB」法案が具体的にどのような恩恵を国民や企業にもたらすのか、というメリットに焦点を当てて詳しく解説します。特に、人々の生活やビジネスに直結する「税金優遇」と「国内回帰」の側面から見ていきましょう。

目次

庶民の財布にも影響するか「個人減税の恒久化」で手取りアップの期待

「BBB」法案が実現すれば、まず我々の家計に直接的な影響を与えるのが「個人減税の恒久化」です。2017年のトランプ政権下で実施された大型減税が、2025年末の期限を過ぎても継続されることになります。法人税率も21%に維持される見込みです。

具体例として、年収10万ドルの4人家族の場合、税負担が旧制度よりも軽くなります。また、子育て世帯には朗報で、チャイルドタックスクレジット(児童税額控除)が、子ども1人あたり2,000ドルから2,500ドルに増加する予定です。

さらに、注目すべきは州・地方税(SALT)控除の上限引き上げです。現在は1万ドルと制限されていますが、これが4万ドルへと大幅に引き上げられます(但し、年収50万ドル以下の世帯が対象)。

これは、カリフォルニア州やニューヨーク州など、高税率の州に住む納税者にとっては年間数千ドルもの節税につながる大きなメリットとなるでしょう。

そして、日々の生活に密着した部分では、チップや残業代が非課税となるという驚きの施策も含まれています。例えば、チップで500ドルを受け取ったサーバーは、その分が非課税となり、手取り収入が増加することになります。これは、サービス業従事者を中心に、多くの人々の可処分所得を増やすことにつながると期待されます。

企業活動を活性化!「全額即時償却」と「報復関税」でアメリカ経済を再建

個人への減税だけでなく、「BBB」法案は企業活動を強力に後押しする施策も盛り込んでいます。

その代表例が「全額即時償却(Bonus Depreciation)」の恒久化です。機械設備や研究開発費など、企業が投資した金額の100%を、その年の経費として即座に償却できるようになります。

例えば、製造業が500万ドルの設備を購入した場合、その全額を初年度に費用として計上できるため、企業の税負担は大幅に軽減され、手元資金が増加します。

これにより、企業は積極的な設備投資を前倒しで行い、賃上げや新規雇用を促進することが期待されます。これは国内製造業の活性化、ひいては地域経済の成長を促すでしょう。

また、前回の記事でも触れた「Section 899(報復課税)」の導入も、この法案の重要な柱です。

これは、OECDが推進する最低課税制度やデジタル税を導入する国々に対し、配当、利子、ロイヤリティへの源泉課税率を引き上げるというもの。海外に利益を移転する企業に対する制裁効果を持たせることで、米国内への投資を促し、「アメリカファースト」の経済政策を強化する狙いがあります。

さらに、バイデン政権が推し進めたグリーン政策の支援を縮小し、化石燃料支援へと転換する方針も示されています。これは、エネルギー供給の安定化とコスト削減を重視するトランプ大統領の政策思想を反映したものです。

国防強化からギグワーカー支援まで、多岐にわたる「MAGA」政策

「BBB」法案は、税制改革や経済政策だけでなく、国家安全保障や社会構造の変化にも対応した多岐にわたる施策を含んでいます。

まず、国防と国境警備予算の大幅な増加です。国境の壁建設の推進に加え、国境警備隊の増員、そして防衛費の抜本的な拡充が計画されています。防衛費は1,500億ドル、国境警備には700億ドルの増額が計上されており、これは国家安全保障を最優先するトランプ大統領の姿勢を明確に示すものです。

また、現代社会の働き方を反映した「ギグワーカー」に対する支援も含まれています。VenmoやPayPalといった決済プラットフォームを通じたギグワーカーの収入に対する報告義務の閾値が、これまでの年間600ドルから2万ドル(または200回以上の取引)に大幅に引き上げられます。

これにより、多くの小規模事業者や個人事業主の事務負担が軽減され、ビジネスの自由度が高まることが期待されます。

ユニークな施策

そして、とてもユニークな施策の一つが、新生児向けの「MAGA(Money Accounts for Growth and Advancement)貯蓄口座」の創設です。

政府が新生児一人あたり500ドルから1,000ドルを拠出し、その資金は将来的に教育費や住宅購入に活用可能となります。

これは、国民のライフステージを支援すると同時に、トランプ大統領の選挙スローガン「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」の頭文字「MAGA」を冠することで、彼の政策が国民一人ひとりの生活に寄り添うものであることをアピールする、人気取りの側面も持ち合わせていると言えるでしょう。

「BBB」法案は、減税から国防、社会保障、そして国民生活の細部に至るまで、トランプ大統領の「アメリカファースト」を具現化する包括的な戦略です。

次回の記事では、この巨大法案がはらむ潜在的なリスクと、米国経済、そして世界に与えうる負の側面について、慎重な視点から考察します。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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