ブックレビュー2回目は、シリコンバレーの巨人たちを育て上げた伝説のコーチ、ビル・キャンベル氏の教えをまとめた一冊、
『1兆ドルコーチ』(原題: Trillion Dollar Coach)
を選びました。
「コーチ」が1兆ドル企業を育てた理由
ビル・キャンベルは、スティーブ・ジョブズ、エリック・シュミット(元Google CEO)、ラリー・ペイジ(Google共同創業者)などなど、名だたる経営者たちが師と仰いだ人物です。
氏は、元々は大学のアメフトのコーチ。その後、ビジネス界に転身し、AppleやGoogleなどの役員を務めながら、多くの経営者や起業家を個人的にコーチングしていました。
彼が直接指導した企業の時価総額の合計が1兆ドルを超えたことから、このタイトルが付けられています。
この本で描かれているのは、「人を育て、チームを成功に導く」ためのリーダーシップ論です。前回の『人を動かす』が普遍的な人間関係の原則だとすれば、こちらはより組織やチームにおける実践的な知恵が詰まっていると言えるでしょう。
鍵は「信頼」と「心理的安全性」
ビル・キャンベル氏のコーチング哲学の中心にあるのは、「信頼」です。彼は、テクニックや戦略以前に、まず相手を深く信じ、本気で向き合うことを何よりも重視しました。
まずはメンバーの能力と可能性を信じることから始める。
好かれようとするのではなく、時には厳しく、愛を持って叱咤激励する。本気の姿勢が相手の心を動かす。
メンバーが安心して意見を言え、失敗を恐れずに挑戦できる環境を作る。「この人の前なら大丈夫だ」と思える空気感が重要。
特に「心理的安全性」は、現代のチームビルディングにおいて非常に重要なキーワードです。彼がその重要性を早くから理解し、実践していたことが驚きです。
「熱血」と「愛情」に満ちたリーダー像
本書を読んでいると、ビル・キャンベル氏の熱血漢ぶりが伝わってきます。彼は決して、クールな戦略家タイプではありません。エネルギーに満ち、情熱を持って人と接し、心からの言葉でメンバーを鼓舞します。
例えば、若手社員が役員の前でプレゼンする際、緊張している様子を見ると、真っ先に駆け寄り、「素晴らしいプレゼンだった!」と声をかけて勇気づけた、というエピソードがあります。まさに、温かい「親父」のような存在だったのでしょう。
ただ優しいだけでなく、メンバーが「コーチャブル(素直に教えを受け入れる姿勢)」でなければ、厳しく接することもあったようです。
本気だからこそ、相手の成長のために妥協しない。そのバランス感覚が、多くのトップリーダーから絶大な信頼を得た理由なのかもしれません。

リーダーシップの本質を問う一冊
『1兆ドルコーチ』は、単なる成功譚ではありません。チームの力を最大限に引き出し、メンバー一人ひとりの成長を促すための、リーダーシップの本質を教えてくれます。
経営者、マネージャー、チームリーダー、部下や後輩の育成に悩んでいる方、強い組織文化を築きたいと考えている方などにとって、多くの示唆を与えてくれるでしょう。
特に、「信頼」と「心理的安全性」というキーワードは、これからの時代のリーダーにとって必須の要素です。部下やメンバーとの関わり方を見つめ直すきっかけになる、力強い一冊です。
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