CES 2025会場レポートその2│自動化、EVシフト、ヘルステック最前線のLVCC West、South、Venetian、Eureka Park編(CES2025シリーズVol.3)

CES 2025シリーズ記事全7回の第3回です。 今回は、LVCC(ラスベガス・コンベンション・センター)のWest HallとSouth Hall、そして会場を移してVenetian Expo、スタートアップが集うEureka Parkの様子をお届けします。

目次

多様化するテクノロジーの展示エリアへ

さて、ここからはCESの真髄とも言える、多岐にわたるテクノロジー展示エリアの体感レポートです。

CESは今や、かつての家電見本市という枠を大きく超え、あらゆる産業の未来を映し出す鏡のようなものと言えます。

例えば……

・EVシフトや自動運転技術など、大きな変革期を迎えている自動車産業の最新動向

・世界市場での存在感を増す中国企業が提供する、かなり幅広い商品ラインアップ

・私たちの暮らしに直結するデジタルヘルスケアやフードテックの目覚ましい進化

・近未来を担うスタートアップたちのアイデアや取り組み

などが展示されています。これらの展示を見ることで、現代テクノロジーがいかに多様で、私たちの生活や社会を変革しようとしているかが推察できます。

LVCC West Hall ─ 大変革期を迎える自動車産業と「働くクルマ」

West Hallは、モビリティ関連、特に自動車技術の展示が中心となるエリア。まず目を引いたのは、「働くクルマ」の進化です。

John Deere、Caterpillarといった米国の巨大農機・建機メーカーに加え、日本のKomatsu、Kubotaなども大規模なブースを出していました。

展示されていたのは単なる新型機ではなく、電動化され、AIによって自律的に作業を行う次世代の農業機械や建設機械でした。これらには、人手不足の解消や、作業効率の大幅な向上に貢献する技術として、大きな期待が寄せられています。

また、倉庫内の物流を完全に自動化するシステムや、水素エネルギーを活用した大型商用車なども注目を集めていました。

乗用車関連では、EVシフトへの流れで、「参入障壁」という言葉がもう存在しないのではないかと考えさせられます。2017年6月にベトナムで創業したVinFast、2018年6月にトルコで創業したTogg、2021年3月に中国で創業したZeekrのような新興EVメーカーの進出は、業界の構造変化を象徴しているのではないでしょうか。 SonyがコンセプトEV「VISION-S」を発表したのが2020年のこと。当時は大いに話題となりましたが、今やこれまで自動車を製造していなかった異業種がEV開発に参入しています。

Photo courtesy of Consumer Technology Association (CTA)®

ここで特に印象に残っているのは、日本のSuzukiとHondaの展示です。Suzukiは、日本の「軽自動車」で培った小型・軽量化技術や効率性を活かし、ラストマイル配送などに適した実用的な小型EVソリューションを提案。Hondaも、パーソナルユースから配送業務まで対応可能なコンパクトEVのコンセプトモデルなどを展示し、現実的なアプローチとして注目されていました。

そして、今年のWest Hallで最も重要なキーワードとなっていたのが「SDV(Software Defined Vehicle)」です。

ソフトウェアによってクルマの機能が定義され、購入後もアップデートによって進化し続けるという考え方は、もはや業界標準となりつつあります。

メジャーなところではAmazonが、自社のクラウドプラットフォームAWSを基盤にして「Tier1サプライヤー(自動車メーカーに部品やシステムを提供する事業)」の地位を確立しようと積極的な動きを見せていました。

驚くべきは、これまでITアウトソーシングなどを主戦場としてきたインドのWIPROのような企業までもが、この自動車産業の大変革期にTier1サプライヤーの参入をアピールしていたことです。 自動車産業が、従来の「すり合わせ型」から、モジュール化された部品を組み合わせる「組み立て型」へと、根本から構造を変えつつあることを強く感じさせられました。

LVCC South Hall ─ 圧倒的な物量で迫る中国企業

South Hallは、今年も中国企業の展示で埋め尽くされていました。スマートホームデバイス、ドローン、ロボット掃除機、電動歯ブラシ、最新のLED照明器具など、ありとあらゆるジャンルのコンシューマー向け製品が所狭しと並んだ様子には圧倒されます。

米中間の政治的な緊張関係が報じられる中でも、中国企業はグローバル市場でのビジネスチャンスを求め、CESに積極的に出展しています。そこに、ビジネスに対して常に精力的な中国の強いエネルギーを感じました。

Venetian Expo─デジタルヘルスの未来

場所をLVCCからVenetian Expoに移すと、そこはデジタルヘルスと今後の注目技術の最前線となります。デジタルヘルス関連の中でも、注目を集めていたのが「血糖値モニタリング」技術です。

従来、1型糖尿病患者向けが中心だった持続血糖測定器(CGM)は、近年、Abbot社の製品などが健康意識の高い一般層にも広がりを見せています。

CES 2025では、針を身体に刺す必要のない「非侵襲(Non-invasive)」型の血糖値センサー技術を開発するスタートアップが複数登場しており、大きな技術的進歩を感じさせました。これが普及すれば、多くの人が手軽に食事と血糖値の関係を把握し、生活習慣病予防や日々の健康管理に役立てられるようになるでしょう。

今後の注目領域として取り上げられていたフードテック(FoodTech)分野では、植物由来の代替肉や培養肉といった新しい食品に加え、より効率的で持続可能な農業を実現するための技術、例えば化学肥料や農薬に代わるバイオ技術などが展示されていました。将来の食糧問題や環境問題を見据えたソリューション開発が確実に進んでいます。

Eureka Park─イノベーションの卵が集まる場所

CESのもう一つの大きな魅力が、世界中のスタートアップが集結する「Eureka Park」です。アイデアを物理的な「モノ」として形にした世界各国のハードウェア系スタートアップが多く、会場は今年も活気に満ちていました。

日本のスタートアップを支援するジャパンパビリオンも年々存在感を増しており、健闘ぶりがうかがえます。

一方で、国を挙げて支援する韓国企業の勢いは目覚ましく、数年前まで大きな存在感を示していたフランス企業の勢いがやや落ち着いたように感じられたのは、近年のトレンドの変化かもしれません。Eureka Parkは、まさに世界の各国が後押しする技術トレンドの萌芽を見つけ出す「宝探し」のようなエリアです。

シリーズ記事、まだまだ続きます

次回は、CES 2025で最大のトレンドとも言える「ウェルネス」分野を深掘りします。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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