CES 2025 最大のトレンド「ウェルネス」市場の深掘り│AIと健康意識が生む新潮流(CES2025シリーズVol.4)

Photo courtesy of Consumer Technology Association (CTA)®

CESには毎年、AI、5G、メタバースといった華々しい技術トレンドが登場しますが、今年のCES 2025で、それらと並び、あるいはそれ以上に強い潮流として感じられたのが「ウェルネス(Wellness)」です。

ウェルネスとは、「心も体も元気で、より良い生活を目指すこと」という意味です。ただし、単に病気じゃない(健康)状態というだけでなく、人生をより良く充実させるための積極的な取り組みや考え方をも含んだ概念と考えていいでしょう。

さらに広義では、健康や幸福に関連する技術や製品やサービスなどもウェルネスの概念に含められます。 と、ここまで記したウェルネスの概念をふまえて、引き続きCES 2025の現場レポートをご覧ください。

目次

なぜ今、「ウェルネス」なのか?

なぜ今、これほどまでにウェルネスが注目されているのか。CES 2025の現場で見聞きしたことや、社会背景を踏まえながら、その理由と可能性を探ります。

健康や幸福に関連する技術や製品は、近年めざましい発展を遂げています。CES 2025でも、単にヘルスケア機器が展示されているというレベルでは決してありません。AI技術と深く結びつき、私たちの心身の健康をより積極的に、そしてパーソナルにサポートしようという大きなうねりを見せつけられました。

背景1─AI進化の新フェーズとパーソナライゼーション

CES 2025の重要な基調講演の一つで、NVIDIAのCEO、ジェンセン・ファン氏は、AI技術が現在の生成AIの段階を超え、「エージェントAI」や「ジェネリックAI」といった新たなフェーズに入りつつあると語りました。

これは、AIが単に指示に応答するだけでなく、ユーザーの意図をより深く理解し、自律的に目標達成を支援する存在になる可能性を示唆しています。このAIの進化は、ウェルネス分野においても、個々人の状態や目標に合わせた、より高度なパーソナライゼーションを可能にし始めています。

例えば、ウェアラブルデバイスから得られる膨大な生体データをAIが解析し、その人に最適な睡眠改善策、食事プラン、ストレス対処法などをリアルタイムで提案するといった応用です。

背景2─高まる健康意識 「自分の体は自分で守る」

特にミレニアル世代やZ世代といった若い世代を中心に、「自分の健康は自分で管理する」という意識が非常に高まっています。

肉体的健康への関心

Apple WatchやOura Ringのようなウェアラブルデバイスで、睡眠、心拍、活動量などを日常的にトラッキングすることは、もはや特別なことではありません。 さらに、CES 2025でも顕著だったように、血糖値の変動を継続的にモニタリングする技術(CGM)への関心が高まっています。

かつては糖尿病患者向けが主でしたが、近年は健康維持やパフォーマンス向上を目的とした一般ユーザーが増加。今後は、針を使わない非侵襲センサーの開発が進むことで、より手軽に「食べるものによる血糖値の変化」を把握できるようになるでしょう。

これによって、野菜を先に食べる「ベジファースト」の実践や特定の食品の回避など、食生活を改善する動きが広がっています。こういった動きの背景には、加工食品の普及による肥満や生活習慣病、アレルギーなどへの懸念があります。

メンタルヘルスへの関心

肉体的な健康と同様に、精神的なウェルネス、つまりメンタルヘルスへの注目度も急速に高まっています。

SNSによる他者比較や情報過多が引き起こすストレス、孤独感、不安感は、特に若い世代にとって非常に深刻な問題です。

アメリカではZ世代の約6割がメンタルヘルスの問題を自覚しているという調査もあるほどで、心身のバランスを取れた健やかな生活への希求が強まっています。CESでも、瞑想をサポートするデバイス、ストレスレベルを可視化するアプリ、オンラインカウンセリングサービスなどが展示されていました。

CES 2025におけるウェルネス展示

CES 2025でウェルネス関連の展示が花盛りだったのも、前述のような現状を受けてのことでしょう。

大手メーカーでは、Samsungの「AI Wellness」、Panasonicの「Panasonic well」などがAIを活用した統合的な健康サポートを提案。Venetian Expoのデジタルヘルスエリアでは、前述の非侵襲血糖値センサーをはじめ、尿や唾液から栄養バランスやストレスレベルを分析するデバイス、睡眠の質を詳細に分析・改善するソリューションなどが多数展示されていました。

もはやウェルネスは、単なるニッチ分野ではなく、テクノロジーが貢献すべき主要な領域として確固たる地位を築いたと言えるでしょう。

巨大なビジネスチャンスとしてのウェルネス市場

このウェルネスへの関心の高まりは、企業にとって非常に大きなビジネスチャンスを意味します。

特に成功の鍵となりそうなのが、「無理なく、続けられる」アプローチです。人々に行動変容を強いるのではなく、既存のライフスタイルや好みに「健康的な付加価値」をプラスする製品やサービスが受け入れられやすい傾向にあります。

既存の商品でも、プロテインを加えてタンパク質を強化したパスタソースや、罪悪感なく楽しめる健康志向のスナックなどが人気です。

「好きなものを我慢する」のではなく、「いつもの選択を少しだけヘルシーにする」というアプローチが、消費者に受け入れられたのでしょう。タンパク質、食物繊維、プロバイオティクスなどを、普段の食事にさりげなく加えられる製品は、今後ますます増えていくと予想されますね。

パーソナル化が進むウェルネスの未来

テクノロジー、特にAIとセンサー技術の進化は、これまでブラックボックスだった私たちの体や心の状態を可視化し、理解することを可能にしつつあります。

自分が口にするもの、行う活動、さらには周囲の環境が、自身のウェルネスにどう影響するのかをデータに基づいて把握し、より良い選択をする。そんな「データ駆動型のウェルネス」が、今後ますます一般化していくことは間違いありません。

CES 2025で示されたウェルネスへの大きな潮流は、一過性のブームではなく、現代社会が抱える課題と人々の意識変化を反映したものです。企業にとっては、消費者のウェルネスに対するニーズを深く理解し、科学的根拠に基づいた、パーソナルで使いやすいソリューションを提供することが、今後の成長戦略において極めて重要になるでしょう。

弊社のメイン事業もウェルネス「Shikohin

次回の予告

シリーズ記事最終の第5回となる次回は、CES 2025の現場レポートを総括し、未来への考察を行います。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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