CES 参加歴15年の定点観測から見えたテクノロジーの未来と日本の課題(CES2025シリーズVol.5)

シリーズ最終号の今回は、CES 2025全体を振り返り、主要なテクノロジートレンドを総括するとともに、長年(15年間)CESを定点観測してきた僕の視点から、これからのテクノロジーが社会や人々の生活をどのように変えていくのか、そして日本企業がこの変化にどう向き合うべきかについて考察します。

目次

CES 2025が示した主要トレンドの再確認と未来展望

今年のCESに参加しての実感を端的に表すなら、「パンデミック後の完全復活と、複数の重要な技術トレンドを明確に示した」となります。

AIの遍在化と進化

AIはもはや特定のカテゴリーではなく、あらゆる製品やサービスに組み込まれる基盤技術となりました。単なる機能提供から、ユーザーの意図を汲み取り自律的に動作する「エージェントAI」への進化の兆しも見え始め、生活へのさらなる浸透が期待されます。

一方で、その膨大なエネルギー消費という課題も顕在化し、サステナビリティとの両立が急務だと言えるでしょう。

ウェルネスへの強い希求

心身の健康と幸福をテクノロジーでサポートしようという動きが、かつてない規模で加速しました。

ウェアラブルデバイスによる生体データ計測、AIによるパーソナルな分析・提案、非侵襲センサー技術の進化などが、セルフケアのあり方を大きく変えようとしています。メンタルヘルスへの関心も高まり、総合的なウェルネスソリューションが求められています。

モビリティの大変革期

EVシフト「SDV(Software Defined Vehicle)」の普及により、ソフトウェアがクルマの価値を定義する時代が到来し、AmazonやAlphabetのようなIT企業や新興企業が自動車産業の構造変革を後押ししています。「働くクルマ」の自動化・電動化も、労働力不足解消や効率化の切り札として注目されました。

サステナビリティの重要性増大

環境負荷低減や資源効率の向上は、もはや企業の社会的責任というだけでなく、競争力の源泉となりつつあります。

省エネ技術、再生可能エネルギー、サーキュラーエコノミー関連の展示は、分野を問わず増加しました。

地政学とテクノロジー

South Hallを埋め尽くす中国企業の存在感は、米中間の政治的緊張とは裏腹に、グローバルな経済合理性の強さを示していました。

一方で、スタートアップエリア(Eureka Park)では、国ごとの支援体制の違いが勢いの差として表れるなど、テクノロジー開発における国家戦略の重要性も垣間見えました。

過去からの変化と未来への示唆

例えば、CES 2020(5年前)では、AmazonやGoogleがクラウドと音声アシスタントを武器に、Home IoTやMobility分野でのプラットフォーム戦略を加速させている様子が注目されました。また、Toyotaの「Woven City」やSonyの「VISION-S」など、未来を示すコンセプト提示が中心でした。

それから5年を経て、CES 2025では、これらの動きがさらに進展・具体化しています。

AIはコンセプトから実用的な「役に立つAI」へと焦点が移り、SDVはコンセプトではなく次世代の車の設計と開発の無視できない指針となり、IT企業の自動車産業への関与も深まりました。

ウェルネス分野も、個別のデバイスから統合的なソリューションへと進化しています。このように、CESは数年単位でテクノロジーの進化と社会実装の進捗を確認できる貴重な場です。

日本企業への示唆と課題

CES 2025のトレンドは、日本企業にとっても多くの示唆と課題を投げかけています。

ウェルネス市場への本格参入

高齢化が進む日本において、健康寿命の延伸やQOL向上は喫緊の課題です。

日本の得意とする精密なセンシング技術やロボティクス、あるいは食文化とテクノロジーを融合させた新しいウェルネスサービスには大きな可能性があります。しかし、グローバル市場で存在感を示すには、データ活用とパーソナライズ化、そして「無理なく続けられる」ユーザー体験のデザインが鍵となるでしょう。

SDVへのキャッチアップ

ソフトウェアが中心となる自動車開発への移行は、日本の自動車産業にとって大きな挑戦です。

従来の「すり合わせ」の強みを活かしつつ、ソフトウェア開発力やエコシステム構築力を強化する必要があります。異業種との連携やM&Aなども含めた大胆な戦略転換が求められるでしょう。

AI活用とエネルギー問題への対応

AIを製品やサービスに組み込むことは必須ですが、同時にそのエネルギー効率を高める技術開発や、再生可能エネルギーの活用といったサステナビリティへの配慮も不可欠です。

グローバルなスタートアップエコシステムとの連携

イノベーションの多くはスタートアップから生まれています。国内だけでなく、海外の有望なスタートアップとの連携や投資を強化し、オープンイノベーションを加速させることが重要です。

未来を創造するテクノロジー

CES 2025は、テクノロジーが単なる利便性向上だけでなく、私たちの健康、幸福、そして地球環境といった、より根源的な価値にいかに貢献できるかを示すイベントでした。

AI、ウェルネス、サステナビリティといったキーワードは、これからの社会を形作っていく上で、ますますその重要性を増していくでしょう。

これらの技術が今後どのように進化し、私たちの未来をどう変えていくのか。CESは、その変化の最前線を体感し、未来への洞察を得るための最高の場所であり続けます。

最後に……

全5回にわたってお届けした「CES 2025シリーズ」は、今回で終了します。

最先端テクノロジーの動向や、そこから見える日米関係の未来について、少しでも読者の皆様の気づきや考察のきっかけとなったなら幸いです。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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