CES 2025会場レポートその1│大手家電の競演とスマートシティの課題 – LVCC Central & North編(CES2025シリーズVol.2)

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CESの心臓部、LVCC

CESのメイン会場であり、最も多くの来場者で賑わうのがラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)です。広大な敷地にはCentral、North、West、Southの各ホールがあり、それぞれ特色ある展示が繰り広げられます。

今回はその中から、CESの伝統的な主役である大手家電メーカーが集う「Central Hall」と、スマートシティやエネルギー関連の展示が目立った「North Hall」の様子をレポートします。

Photo courtesy of Consumer Technology Association (CTA)®

LVCC Central Hall─AIとウェルネスを強調する大手家電メーカー

Central Hallの扉をくぐると、まず目に飛び込んでくるのはSamsung、LG、Hisense、TCLといったグローバルな大手家電メーカーの巨大なブース群です。

最新のテレビ技術(超高精細、大画面、フレキシブルディスプレイなど)の展示は健在ですが、今年の各社の打ち出し方にはかなり変化が見られました。

特にSamsungは、「役に立つAI(AI for All)」をスローガンに掲げ、AIがいかに日常生活を豊かに、そして便利にするかを様々なデモンストレーションで示しているなと実感。スマートホーム連携はもちろん、AIがユーザーの状況を理解し、先回りしてサポートするようなコンセプトがたくさん紹介されていました。

ただ、全体としてはまだコンセプト段階のものが多いという印象。「すぐに使える具体的な機能やサービス」がもう少し欲しいと感じた来場者もいたかもしれません。僕もそのひとりです。

一方で、Samsungを含む多くのブースで共通して強く打ち出されていたのが「ウェルネス(Wellness)」です。

Samsungは「AI Wellness」構想を、Panasonicは自社ビジネスインキュベーター『Panasonic Well』が展開するAIや先進技術を活用し、アプリを通して家族をサポートする包括的なデジタルファミリーウェルネスサービス「Umi」を2025年より米国で開始すると発表。AIを活用して日々の健康管理をサポートするソリューションが目白押しでした。

Photo courtesy of Consumer Technology Association (CTA)®

睡眠の質を分析するデバイス、ストレスレベルを計測するセンサー、パーソナライズされた食事や運動プランを提案するアプリなどなど。人々の健康・幸福への関心の高まりを色濃く反映した展示が印象的でした。

これは、大手メーカーが「ウェルネス」を事業の主柱の一つとして本格的に捉え始めた現れだと言っていいでしょう。

クリエイティブ分野では、Sonyが独自開発の3DCG生成技術を活用した映像制作ソリューションを大々的に展示。リアルとバーチャルの境界を曖昧にする高品質な映像生成技術は、クリエイターエコノミーのさらなる発展を予感させました。

また、同じくSonyの360度立体音響技術「360 Reality Audio」のデモンストレーションにも多くの人が足を止めていました。Nikonも、映像技術とAR(拡張現実)を組み合わせ、仮想空間内にリアルな質感を再現する技術を展示。デジタルツインやメタバースといった領域での活用が期待されます。

LVCC North Hall ─ スマートシティの進化とエネルギーという現実

North Hallは、スマートシティの未来像を描く展示が中心です。自動運転バス、ドローン配送システム、インテリジェント交通管理、スマートグリッドなど、都市全体の効率化や住民の利便性向上を目指す技術が紹介されていました。

かつては、Toyotaが発表した「Woven City」構想や、Hondaが提案した電動モビリティとエネルギーサービスを連携させるコンセプト、あるいは韓国ソウル市長による「人間中心のスマートシティ構想」の基調講演などが注目を集めました。これらの構想が、数年を経た現在時点で、どのように具体化・進化したのか、あるいは新たな課題に直面しているのか、そんな目線で見るのもCESの醍醐味の一つです。

今年のNorth Hallでは、スマートシティの進化と「エネルギー問題」が表裏一体の課題として語られていたのが印象的でした。

特に、あらゆる場面で活用が期待されるAI技術は、その高度な計算処理のために膨大な電力を消費します。ある予測によれば、2030年にはAI関連の電力需要が現在の数倍、具体的には600KWにも達する可能性があると指摘されています。

持続可能な社会を実現するためには、テクノロジーの発展とエネルギー対策を同時に進めることが必須です。それを意識して、省エネルギー性能の高い半導体技術、効率的な電力管理システム、再生可能エネルギーの導入促進、エネルギーハーベスティングなど、サステナビリティに貢献する技術が満載の会場でした。

スマートシティの実現には、単に便利な技術を導入するだけでなく、エネルギーインフラや環境負荷といった側面への配慮が不可欠だと、CES 2025は改めて浮き彫りにした感があります。

Photo courtesy of Consumer Technology Association (CTA)®

次回は残りのブースをレポート

次回の記事では、LVCCのWest HallとSouth Hall、そしてVenetian Expo、Eureka Parkの様子をお届けします。

自動車産業の大変革、中国企業のパワー、デジタルヘルスの最前線、そして未来の原石が眠るスタートアップエリアのレポートにご期待ください。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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