自由の国はどこへ?ICEが加速させる「監視社会」と僕たちが失うもの

これまで2回にわたり、アメリカで急速に権力を拡大する組織「ICE」の実態についてお伝えしてきました。

最終回となる今回は、このICEの動きが私たちの社会全体に及ぼす影響と、その先に待ち受ける未来について考えていきたいと思います。

目次

「パスポートを見せろ!」自宅のドアを叩くICE捜査官の恐怖

想像してみてください。ある日突然、自宅のドアがノックされ、屈強な捜査官が「ICEだ。パスポートを見せろ」と言ってきたら。ロサンゼルスでは、実際にこのような事案が起きています。

これは、もはや特定の誰かを狙った捜査ではありません。外国人というだけで潜在的な「容疑者」として見なされる社会が、すぐそこまで来ている証拠です。

このような「恐怖による統制」は、かつての独裁国家や戦時中の日本を彷彿とさせます。人々は常に誰かに見られているという恐怖から萎縮し、自由な発言や行動ができなくなっていく。これが、トランプ政権が進める「アメリカ・ファースト」のもう一つの顔なのです。

経済成長の裏で失われるもの…僕たちは何を優先すべきか

もちろん、トランプ政権の政策は、アメリカ経済に一定の成果をもたらしているという側面もあります。国内に工場を誘致し、雇用を生み出す。その方針自体は、一見すると正しいように思えるかもしれません。

しかし、そのために僕たちは何を犠牲にしているのでしょうか。ヒュンダイ・LG工場の摘発事件のように、アメリカの経済に貢献しようとした人々が、ビザの不備という理由で一斉に逮捕される。安全や秩序を守るという大義名分のもとで、個人の尊厳や人権が踏みにじられていく。

経済的な豊かさと、個人の自由。僕たちは今、そのどちらを優先するのかという、非常に重い問いを突きつけられているのです。

自由の国アメリカが蝕む民主主義の根幹

ICEの強化とそれに伴う一連の動きは、アメリカがこれまで掲げてきた「自由と民主主義の国」という理念そのものを揺るがしています。

法律は、国民を守るためにあるはずです。しかし、今のICEの活動は、法律を武器に国民(あるいは国内にいる人々)を管理し、恐怖に陥れるための道具になっているようにしか見えません。

「安全保障」という言葉を盾にすれば、どんな強権的な政策も正当化されてしまう。この危険な流れは、民主主義の根幹を少しずつ蝕んでいきます。これは、もはや政治思想の右や左の問題ではなく、僕たちがどのような社会に住みたいのかという、根本的な価値観の問題なのです。

無関心ではいられない。未来のために今、僕たちができること

この3回の記事を通して、僕はICEという組織が現代社会に投げかける大きな問題を皆さんと共有したいと考えてきました。

排他的な流れは、アメリカだけのものではありません。ヨーロッパでも、そして僕たちが住む日本でも、同じような空気が確実に広がりつつあります。そんな中で僕たちにできること、するべきことは何でしょうか。

まずは、無関心でいないこと。世界で何が起きているのかを知り、それが自分たちの生活とどう繋がっているのかを考えること。そして、おかしいと思ったことには、小さくても声を上げることです。

ICEの物語は、決して遠い国の話ではありません。僕たちがどのような未来を選ぶのか、その選択が今、問われているのです。この記事が、皆さんがその一歩を踏み出すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

目次