トランプ大統領再選がスタートアップ環境に与える影響│起業家の視点による考察(前編)

今回は、去る11月5日のアメリカ大統領選の結果を受けて、アントレプレナー的な視点から僕なりの考えをまとめてみます。

目次

新政権下のスタートアップ環境における懸念

トランプ氏が大統領に返り咲いたことのインパクトが、スタートアップにどのような影響を与えるのか。結論から言えばトランプ氏の政策は、スタートアップにとって必ずしも「追い風」にならないでしょう。

減税や規制緩和といった一部の施策は、有効かもしれません。しかし、保護主義的な貿易政策や移民制限は、多くのスタートアップの成長を阻害する恐れがあります。

さらに懸念されるのは、トランプ政策がアメリカ経済全体に及ぼす影響です。長期的には、世界経済と世界貿易の不安定化を招く可能性が否定できません。

元ビジネスマンのトランプ氏らしい政策アプローチ

トランプ氏の政策アプローチは、彼の経歴に深く根ざしていると感じています。ご存知のとおりトランプ氏はビジネスマン出身なので、その手法は従来の政治家とは一線を画すものです。

トランプ戦略の核心は、彼の著書『アート・オブ・ザ・ディール』に明確に表れているので、以下に要約してみました。

*インパクトのある発言
 → 強烈なメッセージを発信し、人々の注目を集める
*大胆な公約
 → 大胆かつ極端な公約を掲げ、議論を喚起する
*柔軟な交渉
 → 実際の政策立案では、より現実的な解決策を模索する

上記は、今回の選挙戦においても顕著でした。

例えば、中国からの輸入品に60%、メキシコとカナダからは25%、BRICS諸国からは米ドルの基軸通貨への対抗政策次第では最大100%、その他の諸国からは基本10~20%もの関税を課すという公約は、「バーン!」と強いメッセージを発する典型例です。

実行される政策に応じた柔軟な調整

とは言え、トランプ氏が、前述のような過激な公約をそのまま実行することはおそらくないでしょう。

ここで重要なのは、彼が「国民の理解を得るような現実界」を見出そうとするだろうという点です。本当の意味での「現実界」を模索しながら、実現可能な政策へ軌道修正する可能性があります。

これこそ、多様なステークホルダーとの交渉や妥協によって、実行可能な政策形成へ向かうトランプ氏特有の姿勢だと言えるでしょう。

僕たちスタートアップ経営者にとって、政策の形成プロセスはとても重要です。公約そのままの政策が実行されないことを前提に、政策形態の変化に応じて自社戦略を柔軟に調整する必要があります。

不確実性こそ新たなチャンス

トランプ氏特有の政策アプローチには、予測不可能な面があることは前述のとおりです。

しかし、その不確実性こそ新たなビジネスチャンスにつながる可能性も秘めています。政策の変遷を恐れるよりも、むしろ「チャンス」と捉え、迅速かつ柔軟に対応するのが起業家に求められる資質ではないでしょうか。

選挙公約から見るスタートアップへの4つの影響

そのまま実行されないと予測される選挙公約ではありますが、現時点で注目すべき点もあります。 中でも特に気になったのが、下記の4つです。

  1. 減税継続と拡大
  2. 金利緩和
  3. 輸入関税強化
  4. 移民政策厳格化

上記について、番号順に掘り下げてみましょう。

1─減税継続と拡大:それって本当にいいこと?

「減税」と聞くと、一見いいことのように思いますよね。だけど、スタートアップにとっては、一概にいいとは言えません。

なぜなら、まだ利益が出ていない段階の会社にとっては、新トランプ政権が掲げる21%から15%への米国連邦法人税の減税の恩恵なんてほとんどないのですから。それどころか、大企業相手に勝ち目のない競争激化につながるリスクを孕んでさえいます。

2─金利緩和:諸刃の剣

金利の引き下げについても、スタートアップが全面的にその恩恵に預かることには繋がらないでしょう。

確かに、今の高金利環境は、不動産業界などに大きな打撃を与えています。また、借入金による資金調達も難しくしています。だからといって金利を下げれば、ただでさえ高いインフレがさらに加速する可能性があるのです。

さらに厄介なのは、金利を下げれば、国の収入そのものが減るのは必至という点。そうなると、国債をもっと発行せざるを得ず、結果的に長期プライムレートが上がってしまいます。

これこそ、スタートアップ(特に不動産関連)にとっては「逆風」です。 つまり、金利の緩和は、インフレリスクとせめぎ合う「諸刃の剣」のようなものだと言えます。

3─輸入関税強化:コスト増加への懸念

続いて、輸入関税強化。これは、僕の事業にも直接影響しそうでとても心配です。

僕のブランド『Shikohin』では、包装材の多くを中国から輸入しています。関税が60%も上がったら、粗利が85%から75%くらいに下がってしまうわけです。高級デパートでの販売で考慮しなくてはならない卸値や営業支援コストを計算すると、採算なんて全く取れなくなりますからね。

じゃあ、メキシコに生産拠点を移すかと言うと、それも現実的ではありません。アメリカ国内で低コストの資材を見つけるのも至難の業でしょう。内製化も考えてみましたが、低コストで大量生産が必要な包装材に関しては、これも難しそうです。

付け焼き刃的ですが、今のうちにできるだけ多くの包材を中国から仕入れてストックするくらいしか対策はありません。

4─移民政策厳格化:労働力不足という課題

移民政策の厳格化は、確かに治安改善には効果があります。でも、アメリカ経済は、移民の力に支えられている面が絶大なのです。特にテクノロジー産業では、高度な技術を持つ移民の貢献が不可欠。

また、介護、医療、建設、物流、外食産業においても、移民が提供する労働力は不可欠であり、これらの分野では移民の存在がなくてはならないものとなっています。 単純に移民をシャットアウトするのが良策とは思えません。

前編まとめ

トランプ氏の公約を参照しながら、新政権の政策について僕なりに考察してみました。

実際には、どの程度が実施されるかは不透明ですが、もしも全面的に実行されたら、スタートアップにとって、今までの取り組みでは厳しい環境になると、私は思います。

次回は「トランプ政権下で各業界のスタートアップがどのように対応すべきか」その具体的な戦略について考察していく予定です。ぜひ、後編もご覧ください

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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