前回は、ドナルド・トランプ氏の驚くべきセルフブランディング能力について語りました。
今回は、彼が「アメリカ大統領」という、これ以上ない強力なブランドを手に入れてから、その戦略がどう進化(あるいは暴走?)しているのか。
そして僕らがその「劇場型ブランディング」から何を感じ取るべきかについて、僕なりの本音で語りたいと思います。
「大統領」ブランドを最大限に活用するトランプ氏
トランプ氏にとって、「アメリカ大統領」というステイタスは、自身のブランド価値を最大化するための究極のツールなのでしょう。
彼は前回の在任中も、そして退任後も、さらには今回の再任後も、自身の立場を最大限に利用して、「トランプブランド」を世界中にアピールし続けています。
政策の内容はさておき、彼のあらゆる言動はその都度ニュースになり、良くも悪くも常に世界の注目を集めているのはご存知のとおりです。
この「注目を集める力」こそが、彼のブランド力の源泉であり、彼自身がそのことを熟知しているんだなと感じます。
彼の集会や演説を見ていると、まるでカリスマ経営者が自社製品を熱烈にアピールするプレゼンテーションのようです。
彼にとって、アメリカも、そして大統領という地位も、壮大な「トランプ・ショー」の舞台アイテムのひとつなのかもしれませんね。
物議を醸す、ゴールドカードとトランプ流ジョーク
彼のブランディング戦略の「ぶっ飛び具合」を示す最近の例が、あの「ゴールドカード」構想ではないでしょうか。
記者会見で彼がぶち上げたのは、「アメリカへの永住権(グリーンカード)の代わりに、500万ドル(約7.5億円)を寄付してくれた人には、特製の『ゴールドカード』を発行して永住権を与える」というもの。
「……いやいやいや、ちょっと待て(笑)」
「国の制度を、まるで自分の会社の特典みたいに語るんじゃないよ」
と、ツッコミたくなったのは僕だけじゃないはず。
だけど、こういうところがいかにもトランプ流という気がします。金持ち優遇と言われようが、物議を醸そうが、彼はまるで平気。むしろ、話題になること自体が目的なのかも知れません。
そういえば、会見で誰かが「いっそ『トランプ・ゴールドカード』って名前にしろ!」って言ったのに対して、「まあ、それで皆が買う気になるなら、タダで名前を使わせてやるよ」というジョークまで飛ばしていたのだとか。大統領が言うセリフなのかと呆れるけれど、それも計算づくのパフォーマンスなのでしょう。

狙撃されても、俺は勝つ!「不屈のリーダー」というイメージ戦略
トランプ氏が選挙集会で狙撃された事件は、昨年の夏のことでした。
自身が耳から血を流しながらも演説を続けた、あの時の写真を彼はどうしたと思いますか?なんと!自分の経営するゴルフクラブの入り口のいちばん目立つ場所に、デカデカと飾っているのです。
この行為は、従来の「成功者」「金持ち」「豪華」「プレイボーイ」といったイメージから、「不屈のリーダー」「どんな困難にも負けない強い男」という新たなブランドイメージを構築しようとする、明確な意図の表れなのでしょう。
普通なら忘れてしまいたい記憶や、思い出したくない出来事すら、自分の「ストーリー」の一部、それもまるで英雄譚」のように演出してしまう。
その転換力とストーリーテリング能力は、やはり並大抵ではないなと恐れ入ります。
稀代のマーケター?注目せざるを得ない理由
さて、ここまでトランプ氏のブランディング戦略を見てきて感じるのは、彼は間違いなく、ブランド戦略の天才であり、稀代のマーケターだということです。
熱狂的な支持者の心理を的確に掴み、彼らが求める「強いリーダー像」「成功ストーリー」を常に提供し続けています。その手法は、時に強引で、時に見境がなく、時に倫理感さえ疑う点も多々あるけれど、結果として強烈な支持と影響力を獲得しているのは間違いありません。
御年78歳。普通ならとっくに引退していい年齢なのに、そのエネルギーと自己顕示欲は衰えるどころか、さらに増しているように見えます。ビジネスパーソンとして、彼の「目的達成への執念」「徹底した自己演出力」「常識にとらわれない発想力」は認めざるを得ません。
ただし、彼のやり方は、一歩間違えれば大きな反発を招き、ブランド価値を一瞬で損なうようなリスクを孕んでいるのも事実。
その危うさも含めて、これからも彼の「ブランディング劇場」からは目が離せませんね。