前回の記事では、アメリカでウェルネスが注目される背景として、深刻な身体的健康問題と、デジタル社会がもたらす精神的ストレスについて解説しました。
ウェルネスを加速させる力│テクノロジーと「賢い食」
こうした背景の中、ウェルネスへの関心をさらに加速させているのが、テクノロジーの進化と食に対する新しいアプローチです。
健康トラッキングデバイスの普及
Apple WatchやOura Ringのようなウェアラブルデバイスは、睡眠の質、心拍数、活動量などを手軽にモニタリング可能にしました。さらに最近では、これまで主に糖尿病患者向けだった持続血糖測定器(CGM)を、健康な人が予防やパフォーマンス向上のために利用するケースも増えています。
何を食べたら血糖値がどう変動するのか(血糖値スパイク)、どんな活動がストレスレベル(コルチゾールなど)に影響するのか。これらを「見える化」することで、人々は自分の体についてより深く理解し、食事の順番を工夫したり(野菜から食べる、など)、自分に合った食材を選んだり、ストレス管理の方法を見つけたりといった、具体的なアクションを取りやすくなっています。
テクノロジーが、個々のウェルネスジャーニーを力強くサポートしているのです。

「ギルトフリー」から「機能性重視」の食へ
食生活の改善が重要だとわかっていても、長年の習慣を変えるのは簡単ではありません。そこで注目されているのが、「ギルトフリー(罪悪感がない)」や「機能性」を謳った食品です。
例えば、「プロテイン入りパスタソース」という製品があります。パスタは美味しいけれど、炭水化物の塊だから罪悪感いっぱい!でも、ソースにタンパク質が豊富に含まれていれば、「タンパク質も摂れるからOK」と思える。こうした「罪悪感を打ち消す」発想の商品が人気を集めているのです。
ほかにも、普段の食事に取り入れやすい形で、タンパク質、食物繊維、プロバイオティクス(善玉菌)、プレバイオティクス(善玉菌のエサ)などを添加した「機能性食品」も次々と登場して、一大市場を形成しています。
無理な我慢をするのではなく、日々の食事を楽しみながら、より賢く栄養を摂取し、体の内側から健康を目指す。そんな新しい食のスタイルが広がっているのです。

ウェルネスは一過性のブームではない
このように、アメリカでウェルネスへの注目が高まっている背景には、深刻化する身体的な健康問題、デジタル社会がもたらす精神的なストレス、そしてそれらの課題に対する解決策としてのテクノロジーの進化や新しい食のトレンドが複雑に絡み合っています。
特に、これからの消費の中心を担っていくミレニアル世代やZ世代は、自分たちの健康に対する意識が非常に高く、製品やサービスを選ぶ上でも「ウェルネス」を価値基準から外すことはないでしょう。
だからこそ、ウェルネスは単なる一過性のブームではなく、人々の生活意識や消費行動にとって、重要な要素となっていくはずです。
大量生産・大量消費の時代を経て、私たちは今、自分自身の心と体にもっと注意を払い、より質の高い、バランスの取れた生き方を模索する時代にいるのかもしれませんね。