なぜ日本は人型ロボット開発に踏み込めないのか?—世界市場とのギャップ

2回にわたってお伝えした「人型ロボット」。今回は日本企業の動向について、僕なりの推測をお話しします。

目次

日本企業がリスクを取らない理由


これまでにお伝えしたように、現在、人型ロボット市場はアメリカと中国が主導しており、日本企業の名前はほとんど見当たりません。その背景には、日本企業の経営戦略の傾向があると考えられます。


例えば、ボストン・ダイナミクスやテスラのような企業は、大規模な投資とリスクを引き受けることで市場をリードしています。

一方の日本企業は、確実性の高い分野に集中しがちで、大きなリスクを取るよりも安定した成長を目指す傾向があります。

テスラのイーロン・マスク氏のように「将来的にこの分野が必要になるから、今リスクを取ってでも投資する」と考える経営者が現在の日本にあまりいないのかもしれません。

日本企業が巻き返すためには何が必要か?

このままでは、日本は人型ロボット市場において大きく後れを取る可能性があります。しかし、技術力がないわけではなく、戦略次第では巻き返す余地は十分にあります。

まず、日本企業は、「かわいい」ロボットや「支援型」のロボットではなく、実際に工場やサービス業で活躍できるロボットの開発を進めるべきだと僕は考えます。そのためには、政府の支援や産学連携を強化し、資金面や技術面でのハードルを乗り越える必要があります

また、日本の強みである「精密技術」や「高品質な製造技術」を活かし、他国にはない高性能なロボットを開発することも重要です。例えば、介護ロボットや災害支援ロボットといった分野で培ったノウハウを人型ロボット開発に応用することで、独自の価値を持つ製品を生み出すことができるかもしれません。

最初のポストでお話しした「2040年の未来」に向けて、日本が再び人型ロボット市場で存在感を示すには、新たな発想と果敢な挑戦が不可欠といえるでしょう。

実用性と規制の課題

日本企業が人型ロボットの開発に慎重なのは、まだ市場のニーズと技術の実用性にギャップがあると考えているからかもしれません。

たとえば、自動運転や電気自動車の分野でも、日本企業は慎重な姿勢を取ってきました。現在も、日本の自動車メーカーはハイブリッド車に注力し、完全なEV(電気自動車)へのシフトが遅れています。


同様に、人型ロボットに関しても「本当に市場が求めるのか?」「規制や社会的需要の変化にどう対応するのか?」といった点で不透明な部分が多く、すぐには巨額の投資ができない状況にあると考えられます。

日本企業が巻き返すためには?


現在の日本では、人型ロボットよりも介護支援ロボットや医療補助機器の開発が進んでいるように見受けられます。


これは、現時点で市場のニーズが明確であり、実用化が進めやすい分野だからでしょう。労働力不足が深刻化しているとはいえ、日本ではまだ人件費が比較的安く、アジアの安価な労働力を活用できます。完全な人型ロボットの導入は急務ではないと判断されている可能性が高いです。


しかし、もしアメリカや中国で人型ロボットの普及が進んだ場合、日本企業はどう対応するのかが僕は気になります。現状のように慎重な経営を続けていると、いざ市場が確立されたときに参入が難しくなるからです。そのことを踏まえると、日本企業は今のうちから研究開発に投資し、技術力を蓄えておくことが、今後の競争力を左右する鍵となるでしょう。


今後、日本企業はどのようにギアチェンジし、人型ロボット市場に参入するのか。その動向を引き続き注視していきます。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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