テスラが去ったメキシコの工場地帯で僕が見た「アメリカの本当の弱点」

メキシコのモンテレイに行ってきました。テキサスとの国境にほど近い、北東部ヌエボ・レオン州の都市です。目的は、南米の起業家が集まるリトリート。年に3回開かれる会で、メンバーとその家族を合わせると100人規模になります。

正味3日間のうち、半分はビジネスや家族、個人的な悩みを経営者同士で打ち明け合うセッション。残りの半分は、その土地ならではの文化を学んだり、社会貢献の現場を訪ねたり、現地で成功している企業を視察したりする時間に充てられます。

今回、僕がどうしても見ておきたかったのが、ある巨大な工場でした。そして、その工場を歩いて回ったとき、僕の頭にはひとつの確信が浮かびました。「アメリカは、もうものを作れない国になっている」ということです。

75%が無人という、起亜の巨大工場で受けた衝撃

訪問したのは、韓国の自動車メーカー・起亜(KIA)の工場です。モンテレイ近郊のペスケリアという場所にある、本当にどでかい工場でした。

中に入って圧巻だったのは、生産工程のかなりの部分がロボットアームで自動化されていたこと。人がほとんど見当たらないラインを、整然とアームが動き続けているんです。

最初に聞いていた話では、稼働の大半が自動化されているとのことでした。ここで作られた車が、近くの港からアメリカやヨーロッパへと出ていく。完全に「輸出のための戦略拠点」として設計されているわけです。

面白いのは、この工場の周りに「韓国村」とでも呼ぶべきコミュニティができていたこと。工場の進出を機に、韓国からの移住が一気に進んでいるんです。ひとつの工場が、街そのものの風景を変えていく。ものづくりが持つ力を、目の当たりにした気がしました。

なぜEVメーカーがこぞってメキシコ北部に集まるのか

このヌエボ・レオン州、ここ数年で製造業の誘致が猛烈に進んでいます。一時はテスラがギガファクトリーの建設を発表し、ここを北米向けEVの一大拠点にする構想がありました(その後、計画は凍結された状態が続いています)。

なぜこの地域なのか。答えは、地図を見ればすぐにわかります。国境を越えれば、すぐテキサス。サンアントニオやオースティンといった都市が目と鼻の先。港も近い。作ったものを、最短ルートでアメリカ市場へ送り込める立地なんです。

そしてもうひとつ、見逃せない動きがあります。アメリカ側のアリゾナ州フェニックスが、いま半導体の一大集積地になりつつあるということ。EVは半導体のかたまりのような製品です。アメリカ側で半導体を、メキシコ北部で車体を。国境をまたいだサプライチェーンが、着実に形になってきているのがわかります。

僕がメキシコの製造現場に立って強く感じたのは、アメリカとメキシコは「切っても切り離せない関係」だという、当たり前すぎる事実でした。アメリカが消費の中心であり続ける限り、誰かがその近くでものを作らなければならない。そして手先が器用で、勤勉な労働力を抱えるメキシコは、その役割にぴったりはまっているんです。

カルテル問題が解けたとき、メキシコは化ける

ただ、メキシコには、長年抱えてきた大きな問題があります。何かというと、麻薬カルテルです。

カルテルが力を持つようになった背景には、かつて発展途上にあったこの国の事情があります。政府との癒着、賄賂。そうした構造の上に、闇の経済が根を張ってきました。

でも、僕はここに希望を見ています。ものづくりがメキシコに根づき、健全な産業でお金が回り始めたらどうなるか。賃金が上がり、まっとうに働いて稼げる人が増えます。そうなれば、人はわざわざ危ない橋を渡らなくてもよくなるでしょう。賄賂に頼る理由も、薄れていきます。経済の発展そのものが、カルテル問題を内側から溶かしていく可能性があるんです。

トランプ政権が国境管理を強く主張しているのも、見方を変えれば筋は通っています。南米で作られた違法薬物がアメリカに流れ込むとき、その多くはメキシコ経由です。広大な国境線は、どこからでも入り込める弱点でもありえますから。だからこそアメリカは神経をとがらせているわけです。

立場によって見える景色は違いますが、ひとつだけ確かなことがあります。もしメキシコがカルテル問題を乗り越えられたなら、この国は驚くほどのスピードで発展していくに違いないということ。今回、工場の現場に立って、僕はその「のびしろ」をはっきりと感じました。

これからも中南米、そして南米の文化や仕事の進め方、人々の考え方を肌で理解しながら、自分の事業の可能性を広げていきたいと思っています。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。