「不動産で財をなした投資家が、今は追い込まれて命を絶っている」
南カリフォルニアで耳に入ってくるこんな物騒な話、決して大げさじゃありません。
実は今、アメリカの不動産市場では「満期ショック」と呼ばれる地殻変動が静かに進行中なんです。南カリフォルニアに住む僕自身、自宅と賃貸物件を所有しているし、不動産ビジネスに関わる仲間も多いので他人事ではありません。
「満期ショック」とは何ぞや。アメリカ在住の現場感覚を交えながら、その正体をお伝えします。
不動産は単なる一業種じゃなくて米国経済の心臓部
まず大前提から。アメリカで不動産は「数ある業種のひとつ」ではありません。経済そのものを動かす基幹産業です。
米国全体のGDPに占める不動産・賃貸業の割合は約13.7%。金融、消費、地方財政と密接に絡み合っていて、ここが揺らぐと連鎖的に全体に響きます。トランプ大統領が不動産で財をなしたのも、決して偶然ではないわけです。
ちなみにカリフォルニア州だけで世界第5位の経済規模を誇ります。日本のGDP(約4.28兆ドル)とほぼ並ぶレベル。そのカリフォルニアの中でも、ロサンゼルスのGDPの多くを支えているのが不動産で、固定資産税は地方財政の屋台骨でもあります。
2020年に仕掛けられた「時限爆弾」が今、火を噴く

さて、ここからが本題です。
2020年から2021年、コロナ禍で政策金利は0〜0.25%という超低水準でした。当時、商業物件のオーナーたちはこぞって動きました。市場金利2.5〜4%程度で、3年・5年・7年の固定金利ローンを組んで物件を買い増したわけです。
「まさか金利がここまで上がるなんて思わなかった」
これが、あの頃に物件取得に動いた人たち共通の実感でしょう。
アグレッシブな投資家は5年固定、コンサバな人でも7年固定。つまり2020〜2021年に借りた人たちが、まさに今、変動金利への切り替えタイミングを迎えているわけです。
現在の政策金利は3.5〜3.75%。商業不動産ローンの実勢金利は5〜8%台で、当時のおよそ2倍。つまり、借換えコストが2倍に跳ね上がる物件が大量発生しているわけです。
実際、米国の商業不動産ローン残高は約5兆ドル(※2026年4月時点で約750兆円規模)。そのうち2026年だけで満期を迎える金額は約8,750億ドル、全体の17%にも上ります。
オフィスは構造崩壊、住宅も伸び代なし

さらに追い打ちをかけているのが「需要側」の問題です。
オフィスビルなどの商業物件は、リモートワークの定着で需要が戻っていません。全米平均の空室率は約18〜20%、地域によっては23%超。これは景気循環の問題ではなく、働き方そのものが変わった構造的な変化といえます。
「じゃあ住宅・アパートメントは安泰か?」と思いきや、こちらもすごく厳しい。全米のマルチファミリー空室率は約8.6%まで上昇しています。インフレで生活費が圧迫されている中、家賃を引き上げる余地はほぼありません。
加えて、AIによる雇用への影響も無視できない要素です。テックや金融といった高所得テナント層が職を失い始めると、月額数千ドルの賃料を払い続けるのは難しくなります。
つまり、金利は上がる、賃料は上げられない、テナントの支払い能力は下がる。三重苦でキャッシュフローがどんどん細っていく構図は、不動産の持ち主にとって地獄の苦しみです。
「不動産危機」ではなく「資本構造の崩壊」
ここで強調したいのは、これは単なる不動産市況の悪化ではない、ということ。
借換えできない物件は売却を迫られます。買い手がつかなければ、ディストレス(不良債権化した)物件として安値で叩き売られる。優良物件と不良物件の二極化が一気に進みます。
冒頭で触れた話に戻ります。何百億相当の物件を持っていても、毎月の逆ザヤが続けば精神的にどんどん追い詰められるでしょう。
コロナ時期に5年固定で組んだ層は、すでに去年あたりから限界を迎えています。この流れは2026年から2027年にかけて、もっと表面化してくると予想されます。日本にいるとピンとこないかもしれませんが、アメリカの金利変動の波は怒涛のように荒いのです。
自分の資産は自分で守るしかない
僕自身、自宅は10年固定で、賃貸物件は30年固定で組みました。たまたま運よく、超低金利の時期に動けたのが救いです。
ただ、こうした「構造的な揺らぎ」を理解しているかどうかで、これからの数年の判断はまったく変わってくると思います。アメリカの不動産危機は対岸の火事ではなく、世界経済全体に波及するインパクトを持つ話だと覚えておいてください。
来年の今ごろは、どんなニュースが流れているのでしょうか。しっかり注視していきたいテーマです。


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