先日、友人が撮った映画のプレミア上映会に行ってきました。『アトラス・キング(Atlas King)』という作品です。
監督はニカ・アギアシヴィリという男で、脚本も彼が書き、プロデューサーの一人にも名前を連ねています。
彼と知り合ったのは約14年ほど前のこと。同作品に出演していて、グレイトフル・デッドの元メンバーが中心になっているデッド&カンパニーのコンサートにいっしょに行った友人から紹介受けました。
友人が脚本も監督もプロデュースもした映画
ジャンルとしては、日本でいう任侠映画に近いクライムアクションです。
主演はマイケル・ビスピン。イギリス人として初めてUFCの世界王座を獲った元総合格闘家で、俳優としてはこれが初主演になります。演じるのは、第一線を退いて長く街を離れていた元格闘家のアトラス・キング。親代わりだった恩人ダッチの葬儀のためにロサンゼルスへ戻り、抜け出したはずの裏の世界に引き戻されていきます。
アトラスが守ろうとするのが、ダッチの息子であり、彼自身の名付け子でもあるトミーです。血のつながりはないけれど、放っておけない相手ですね。その二人を苦しめる悪役を演じているのが、キューバ・グッディング・ジュニアです。『ジェリー・マグワイア』でアカデミー賞の助演男優賞を獲った、ハリウッドでは知らない人のいない俳優ですね。
柔道でオリンピックの金メダルを獲り、その後アメリカで総合格闘家になった石井慧さんも、ちょい役で出ています。格闘技の世界で名前の通った人たちが、そのまま画面に並んでいる映画です。
撮影と編集は8ヶ月で終わった

僕にとって面白かったのは、作品そのものよりも、この映画が世に出るまでの過程を最初から近くで見られたことでした。
会場にはレッドカーペットが敷かれ、キャストやスタッフが順番に写真に収まっていきます。僕も彼らと並んで一枚撮ってもらいました。ただ、この日にたどり着くまでのほうが、はるかに長い道のりだったのです。
彼らは撮影から編集まで、8ヶ月ほどで仕上げてしまいました。作ると決めてから形になるまでが、驚くほど速い。編集が終わってできたてのものを、半年ほど前に見せてもらっています。
大変だったのは、そこから先です。
作った映画を、劇場にかけてもらうのか、NetflixやApple、Huluのような配信に乗せるのか。どこが配給を引き受けてくれるかが決まらないと、映画は誰の目にも触れないまま終わります。作品が完成していることと、それが観られる状態になっていることは、まったく別の話なんですね。彼らはそこから、ずっと営業に走り回っていました。
実績がないうちは、作ってからしか売れない
企画の段階で「こういう映画を作ります」と持っていって、先に買い手を決めておけばいいのではないか。僕も彼に同じことを聞きました。
答えははっきりしていて、それができるのは実績のあるチームだけです。彼らのようにインディペンデントで、まだ名前の売れていない作り手は、完成品を持っていくしかありません。お金も時間も先に出して、売れるかどうかは後から決まります。実績や信用があるとないとでは、順番がまるで逆なんです。
これは映画に限った話ではありません。新しい事業を立ち上げるときも、同じ構造になります。「売れるとわかってから作る」ができるのは、すでに信用のある人だけ。最初の一本は、たいてい自分で全部背負ってから外に出すことになります。
だから今回、配給が決まって、レッドカーペットでお披露目する場までこぎつけたこと自体が、彼らにとっては大きな一勝でした。北米ではすでに、配信とオンデマンドで見られる状態になっています。
最後にものを言うのはストーリー

では、この『アトラス・キング(Atlas King)』という映画は、ここから先はどこまで届くのでしょうか。
キャストの華やかさでも、宣伝の物量でもなく、最終的に決めるのはストーリーだと思います。観た人が引き込まれるかどうか。作り手が一番時間をかけるべきところであり、そこを外すと、あとから何をやっても取り返しがつきません。
ロサンゼルスに住んでいると異業種の人との交流が多く、そんな出会いから友人ができることも多いです。おかげで、自分とはまったく違う業界の人が、何に苦労して、どこで勝負しているのかを間近で見せてもらえる機会もあります。日本にいたら、たぶん手に入らなかった刺激です。
ただ、まるで違う業界にいても、苦労するところは同じだと感じています。作るところまでは気合いと時間でなんとかなるけれど、難しいのはそのあと。いかに響くストーリーを提供できるかなんですね。

