先日、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事を読んでいて、思わず数字を二度見しました。
カリフォルニア州に本社を置くスタートアップが、今年に入ってから集めた投資額が約3,660億ドル。日本円にすると、ざっと58兆円です。しかも1年分ではなく、1月から8月20日までの数字でした。
カリフォルニアに、他の49州の3倍のお金が集まった
記事のタイトルは「California Draws More Startup Investment Than All Other 49 States Combined」。
アメリカには50州ありますが、カリフォルニア1州が集めた金額は、残りの49州を全部足した合計の3倍以上にあたります。
2位はニューヨーク州で270億ドル。カリフォルニアはその13倍以上です。桁がひとつ違うどころの話ではありません。カリフォルニア自身がこれまでに記録した最高額と比べても、今年はその倍近くのペースで進んでいます。
理由はもちろん、AIです。
半分以上はOpenAIとAnthropicの2社

ただ、内訳を見ると景色がかなり変わります。
3,660億ドルのうち、1,220億ドルは、OpenAIが3月に調達した1回分。シリコンバレー史上最大の資金調達だそうです。そしてAnthropicが2回の調達で計950億ドル。この2社だけで2,170億ドル、全体の6割近くを持っていったことになります。
残りは約1,490億ドル。これを4,000社を超える企業で分け合った計算です。1社あたりの平均は約3,700万ドル、日本円で50億円台。決して小さな金額ではありませんが、上の2社とは明らかに別の土俵の話です。
「カリフォルニアに巨額のお金が降ってきた」という見出しだけを見ると、そのお金が広く行き渡っているように思えます。実際に起きているのは、ごく一部への極端な集中です。
税金が高くても、みんなシリコンバレーに集まる
カリフォルニアは、企業にとって決して条件のいい場所ではありません。物価は高いし、州の所得税率は全米で一番高い。法人にかかる州税も高いほうです。さらに今年は、富裕層の資産そのものに課税する案が11月の住民投票にかけられることになっていて、投資家が逃げるのではないかと心配する声もチラホラ。
それでもお金と人は集まり続けています。記事の中で地元のシンクタンクの人が「そこがいちばん動いている場所だから」と答えていましたが、実際にそれに尽きるでしょう。
資金の出し手が近くにいる。自分たちのサービスを買ってくれる会社が近くにいる。会社を売るとなったときの買い手も、採用したい人材も近くにいる。
近くにいれば、ちょっと会って話して、その場でアイデアを交換できます。この速さは、税金の高さで簡単に打ち消せるものではありません。
産業が一か所に集まるのは、昔からあることです。自動車はデトロイトに、映画はロサンゼルスに集まりました。ただ、UCバークレーの経済学者は、今回のAI投資の集中は過去のどの波よりも極端だと指摘しています。
これからの戦い方は二つ

ここまで来ると、AIそのものを開発する勝負は、もうついたと考えたほうがいいでしょう。
OpenAI、Anthropic、Google。この規模の資金で世界中の優秀な人材を吸い上げている相手に、正面から挑んで勝つのは現実的ではありません。国が全力で守ってくれるなら話は別ですが、それを前提に事業計画は立てられないでしょう。
では、僕らはどう戦うのか。道は二つあると思っています。
AI領域でトップを取る道
ひとつは、彼らが次々に出してくる最新のAIを使い倒して、自分が一番になれる領域を見つけること。
誰も取りにいっていない、自分の宝島を探す作業です。
中途半端に「AIを活用しています」と言うだけでは足りません。その領域だけは誰にも負けないところまで尖らせて、既存の市場をひっくり返しに行くのです。
人が手間をかけて生み出す道
もうひとつは、逆張りの道。
世の中がこぞってAIに向かうなら、その反対側に残る価値を取りに行く。手間のかかること、便利ではないこと、人が直接やることにしか宿らないもの。そういう領域に値段がつく余地は、むしろこれから広がっていきます。
どちらの道を選ぶかは、能力や資金の差ではありません。自分がどこで戦うかを決めることです。
AIを使って圧倒的に尖るか。それとも、逆張りで独自の価値を見出すか。
極端なマネーと才能がシリコンバレーの一角に集まり続ける今だからこそ、「自分はどちらの側に立ち、どんな問いを設定して戦うのか」。
その覚悟が、僕たち経営者に問われている気がしてなりません。

