新しい事業を進めるか、やめるか。最後にそれを決めるのは経営者です。ところが、その判断基準が経営者の頭の中にしかないと、そのときどきで軸がぶれてしまいます。
Treasure Island Operating System(TIOS)で「意思決定軸を磨く」と呼んでいるのは、この基準を言葉にして、試した結果から更新し続けることです。
判断の軸は、ふたつの観点でつくる
ひとつ目の観点は、会社としての判断軸です。経営理念や会社の目的に合っているか、今の事業と相乗効果があるか、いくらまで投資できるか、どのくらいの時間をかけられるか、どこまでリスクを取れるか。こうした、事業の中身とは別の会社側の事情を先に確認します。
ふたつ目は、事業そのものの魅力です。こちらは、次の7つの問いで多面的に評価します。
- どのような未来を実現したいか
- どのような事業なのか
- この事業は、伸びる必然があるか
- なぜ、顧客は選び、選び続けるのか
- なぜ、真似されないのか
- どうやって、事業として成立するのか
- なぜ、「あなたたち」なのか
どの観点を重く見るかは、会社によって違います。その重みづけこそが、その会社の判断軸になるわけです。
Shikohinは7つの問いにこう答えた

僕の会社Shikohinでも、この7つの問いで軸を定めました。いくつか紹介すると、1つ目の「どのような未来を」には、「世界が憧れる日本の美を、日々の習慣として世界の暮らしに根づかせる」と答えています。
3つ目の「伸びる必然」は、ウェルネスが商品から習慣へ移り、予防や健康寿命が次に大きく伸びる市場になるという見立てでした。
5つ目の「なぜ真似されないのか」に対しては、マス広告を捨て、エステティシャンを起点に、EC、ホテル、小売店へと信用がつながっていく構造を築くことを挙げました。
7つ目の「なぜあなたたちなのか」の答えは、日本のいいものをアメリカの人に伝わる形に翻訳する力と、それを事業として形にする力、そして一緒に組める人とのつながりです。 問いへの答えがそろうと、目指す未来と日々の打ち手が一本の線でつながります。
進める・やめる・保留を、理由と一緒に記録する

TIOSでまず行うのは、事業の提案と計画、選んだお手本の企業、もとになったシグナルを、ひとまとめにして保存することです。判断を下すときは、進める、やめる、保留のどれにするかを決め、その理由と、判断した人の評価やコメントも一緒に残します。保留にする場合は、「この条件がそろえば進める」という条件を書き添えておける仕組みです。
保留は、決められないことではありません。押してもだめなときに一歩引いて全体を見渡すと、前に進めない本当の理由が見えてくることがあります。
判断のたびに、自分に問いかけてほしい視点もあります。前提は何か、その前提が外れたらどんなリスクがあるか、筋が通っているか、判断に足りない情報はないか、誰にどんな影響を及ぼすか、の5つです。
こうした記録が積み重なると、提案と判断の履歴や、「うちの会社は何を選ぶのか」という傾向、うまくいったときと失敗したときに共通する要因が見えてきます。次の判断は、そのぶん速く、ぶれにくくなっていきます。
判断の記録は、いわば会社の航海日誌です。どの印を見て、どの航路を選び、どこで引き返したのか。それが残っていれば、次の航海はもっと確かなものになります。
経営者の頭の中にしかなかった判断基準が、組織に引き継げる財産になる。僕がTIOSでいちばん実現したかったことの一つです。次回はシリーズの最終回として、自社だけでは届かない視野を広げる、日米の経営者とのつながりについてお話しします。

