変化の兆しは、データに表れるより先に、人との会話に出てくるものです。しかも、実際にやってみてどうだったかという知恵は、先に経験した人の中にしかありません。
Treasure Island Operating System(TIOS)の最後の要素は、日米を起点に、経営者や専門家とつながる場です。
聞いて終わりにしない、実践者のつながり
経営者の交流会や勉強会、海外視察やセミナーも、学びの多い場です。ただ、聞いた話を持ち帰ってそれぞれで活かすことになり、人脈づくりや見聞きしたところで止まってしまうことも少なくありません。
TIOSのつながりでは、日米で実際に事業を動かしてきた人の経験を、そのまま聞くことができます。異業種の経営者と壁打ちしながら判断を磨き、現地の専門家や提携先にも直接つながれるのが特長です。日米のどちらかで先に起きた変化を、もう一方の国での判断に先回りして使えるのも、2つの国にまたがる場ならではでしょう。
偶然の出会いは、実践者の中で起きる
シリーズVol.2で、セレンディピティは準備された目にしか訪れないとお話ししました。もう一つ大切なのは、偶然に出会う機会そのものを増やすことです。
社内のいつものメンバーと話しているだけでは、思いがけない出会いはなかなか起きません。異業種の経営者がふと口にした現場の変化が、自分たちの追っていたシグナルとつながり、次の事業の糸口になる。そうしたことは、実際に事業を動かしている人たちが集まる場でこそ起きます。
TIOSのつながりは、それぞれの宝島を目指して同じ時代の海を進む、船団のようなものです。普段は離れた海域にいても、無線で潮の変化や嵐の兆しを伝え合い、ときには同じ港に寄って、顔を合わせてじっくり語り合う。シグナルを追い続ける習慣と、実践者とのつながり。この2つがそろってはじめて、偶然の出会いも事業の機会として活かせるようになります。
Shikohinを支えた、アメリカでのつながり

アメリカに来て15年、最初の3年は暗中模索でした。自分で作ったネットワークが本当に実を結び始めたのは、5年から10年たってからです。僕自身、Shikohinのコンセプトを事業に変えられたのは、人のつながりがあったからです。
業界でもトップクラスの処方開発者、信頼できる製造パートナー、PR会社、高級小売店のバイヤー、そして日本の調達ネットワーク。こうした人たちと組めたことで、商品開発と製造、高級小売店への導入、ファンのコミュニティづくりへと進むことができました。
実行する力も、組める相手も、アメリカでのネットワークとコミュニティがなければ手に入らなかったと思います。コミュニティは情報を集める場所ではなく、実行するための手段なのです。
実行には、押す力と引く力の両方がいる

これまで多くの経営者と話してきましたが、誰もが口をそろえたのは「結局はエグゼキューション(実行)だ」ということでした。
ただ、ソニーのアメリカ法人で働く友人の石田さんはそこに大事な視点を加えてくれました。実行とは、ひたすら前に押し続けることではない、と。 日本側が「すぐにやりたい」と走り出しても、アメリカ側の準備が整っていない。その逆もよくあります。
押してもだめなときは一歩引いて、全体を見渡してみる。すると、前に進めない理由が見えてくるそうです。そもそも向きがそろっていない、リズムが合っていない。その歯車をかみ合わせるように調整していくと、大きな勢いが生まれるといいます。
リレーにたとえるなら、前の走者が走り出していなければ、後ろからどれだけ全力で駆け込んでも、バトンは上手く渡せません。
もうひとつ、アメリカには失敗を語る文化があります。失敗が許され、その経験がむしろ価値として語られる。僕はこれを「実行知」と呼んでいます。実際にやってみたからこそ得られた知恵のことです。誰を知っているかによって、この実行知にどれだけ触れられるかが変わります。そして、実行の成功確率も、引き際の見極めも変わってきます。
次回は、この実行知に直接触れてもらうためにTIOSで用意している、アメリカでの武者修行と経営ラウンドテーブル、そして入口となる3か月のプログラムについてお話しする予定です。

