はじめに:金融市場を騒がす「899条」
今日は、金融市場やグローバル企業の経営者の間で、にわかに注目されている「899条内国歳入法899条」の話題です。
「899条」というのは、トランプ米政権下で審議が進む税制・歳出法案に含まれる法案ですが、今なぜこれほどまでに注目されているのか。そして、なぜテスラ社のイーロン・マスク氏までもが、公然と怒りを表明しているのか。
この法案が持つ衝撃の輪郭を【4連記事】として解説していきます。今回は、その導入部分です。
イーロン・マスク氏が激怒している理由
先日、イーロン・マスク氏がトランプ前大統領に対して、かなり強い言葉で反発しているというニュースがありました。
その直接的なきっかけは、新しい法案の中に、バイデン政権下で導入されたインフレーション抑制法(Inflation Reduction Act)によるクリーンエネルギー支援策の縮小、特に「電気自動車(EV)補助金の廃止」が盛り込まれていることへの不満にあるようです。
テスラ社にとって補助金はビジネスの根幹に関わるため、死活問題と言えるでしょう。
しかし、彼の怒りの根はもっと深いところにありそうです。マスク氏の発言をざっくり訳すと「何百億もの献金をして大統領選を支援したのに、自分に不利な法律を出しやがってムカつく」という趣旨で紹介されていました。
ビジネス上の利害だけでなく、ある種の裏切りに対する感情的な反発も含まれていることが伺えます。このイーロン・マスク氏の激しい反応こそ、899条が持つインパクトの大きさを象徴しているのです。

問題の核心は「報復課税」
では、899条とは一体何なのでしょうか。この法案の核心は「報復課税」にあります。米国が「不公平だ」と見なす税制を持つ国や地域の企業・個人に対して、罰則的な税金を課すという、非常に攻撃的な内容なのです。
これまでトランプ政権の通商交渉は「関税」が中心でしたが、今度は「国際課税」という新たな武器で世界に揺さぶりをかけてきました。
特に、外国の企業や投資家が米国での投資で得た利益(利子や配当)にかかる税率を大幅に引き上げるという内容が含まれており、これが金融市場を震撼させているのです。
「大きく美しい法案」の不穏な中身
この法案は、トランプ氏によって「The One, Big Beautiful Bill (BBB)(一つの大きく美しい法案)」と呼ばれていますが、その美しい名前とは裏腹に、中身は非常に過激です。
背景には、OECD主導で進められてきた「グローバル最低課税制度(Pillar Two)(Global Minimum Tax)」や、欧州諸国を中心に導入が進む「デジタルサービス税(DST)」に対する、トランプ政権の強い反発があります。
日本も導入している「グローバル最低課税制度(Pillar Two)」は、年間売上高7億5,000万ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業に対し、全世界所得に最低15%の法人税を課すことを求めるもので、米国企業が不当に不利な立場に置かれるとの懸念が根底にあります。

つまり、「我々の企業に不利益な税を課すなら、おたくの国の企業にも相応の報復をするぞ」という強いメッセージが込められているのです。
この法案はすでに今年5月22日に米下院を通過しており、7月の上院での審議に向けて、世界中の金融機関やグローバル企業が固唾をのんで成り行きを見守っています。トランプ前大統領は、7月4日のアメリカ独立記念日までに上院での可決を何としてでも実現しようとしています。
次回の記事では、この「899条」が具体的に、どこにどのような影響を及ぼすのかについて、詳しく解説していきます。
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