前回の記事では、支持率1%から大逆転勝利を収めたニューヨーク新市長の話題から、アメリカ政治に起きている地殻変動についてお話ししました。今回は、その変動の鍵となる「振り子現象」について、さらに深掘りしていきます。
「なぜアメリカの政治は、トランプ大統領のような人物を熱狂的に支持したかと思えば、今度は社会主義的なリーダーを選ぶなど、極端から極端へ揺れ動くのか?」――この謎を解くことで、今アメリカで本当に起きていることが見えてきます。
振り子を大きく揺らしたドナルド・トランプの「約束」と「現実」
まず、振り子が片方の端に大きく振れた状態、つまりトランプ政権の時代を振り返ってみましょう。彼がなぜあれほどの熱狂を巻き起こしたのか。それは、忘れられていた人々の声に耳を傾けたからです。
彼は「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれる地域の労働者たちに、「あなたたちの仕事を奪った製造業をアメリカに取り戻す」「低所得者層の生活を豊かにする」と力強く約束しました。既存の政治家が見向きもしなかった層にとって、彼は救世主に見えたのです。
しかし、現実はどうだったでしょうか。
彼が打ち出した目玉政策である大規模減税は、結局のところ、大企業や富裕層に最も大きな恩恵をもたらしました。もちろん一部の政策は庶民にもメリットがありましたが、全体で見れば「約束」と「現実」の間には大きなギャップがあったと言わざるを得ません。
さらに、トランプ氏本人は否定しているものの、インフレは依然として収まらず、多くの国民が生活の厳しさを実感しています。こうした現実が、国民の間に新たな不満と政治不信の種を蒔くことになったのです。
対抗馬不在?機能しなくなった民主党の構造問題
「それなら、なぜ野党である民主党が国民の不満の受け皿になれなかったのか?」と疑問に思うかもしれません。ここに、アメリカが抱えるもう一つの根深い問題があります。
実は、現在の民主党は深刻な「世代交代の失敗」に直面しています。
2008年にオバマ氏が大統領に就任して以降、党内では次世代リーダーの育成が進まず、結果として70代、80代の政治家たちが主要ポストを占め続ける状況が生まれました。 そして、彼らの多くは、活動資金を大企業や富裕層からの献金に頼っています。これでは、本当に困っている低所得者層のための大胆な政策を打ち出すことはできません。
ニューヨーク市長選でベテランのクオモ氏が敗れたのは、こうした「国民の声が届かない既存の政治」への不信感の現れだったのです。

「分断」の本質は、エスタブリッシュメントへの不信感
つまり、今アメリカで起きている「振り子現象」のエネルギー源は、共和党か民主党かという単純な対立ではなく、「エスタブリッシュメント(既得権益層)全体への不信感」なのです。
「どうせ政治家は、金持ちや大企業のことしか考えていないんだろう?」
こうした諦めにも似た感情が社会に蔓延し、人々は現状をひっくり返してくれるような、強烈な個性を持つリーダーを求めるようになります。それが、右に振れればトランプ氏であり、左に振れれば今回のマムダニ氏ということです。
ニューヨークで始まった新しい波は、この膠着した政治状況を打ち破る可能性を秘めています。しかし、果たして社会主義的な政策は、巨大都市ニューヨークが抱える問題を本当に解決できるのでしょうか?
最終回となる次回の記事では、新市長がこれから直面するであろう厳しい現実と、今後のアメリカの行方について、僕なりの予測をお話ししたいと思います。

