【後編】弱さを見せない訓練を積んできた僕が、それでも「心の闇」を語ってみたくなった理由

前編では、サンタバーバラで開かれた「EO(Entrepreneurs’ Organization)」リトリートの話をしました。今日はその続き。このリトリートのなかで、僕の心をいちばん強く揺さぶった「EO Talks」というプログラムについてお話しします。

結論を先に言ってしまうと、僕はこのEO Talksを見て「自分もここで、自分の人生を語ってみたい」と思いました。でも同時に、いまだに踏み出せずにいる自分もいるのです。なぜそんなに迷うのかについて、正直に書いてみます。

成功談でも失敗談でもない。語るのは「心の闇」

EO Talksは、EO版の「TEDトーク」のようなものです。TEDトークというのは、各界の人が一人で舞台に立ち、自分のアイデアや経験を短い時間でプレゼンする、世界的に有名な講演会のこと。動画で見たことがある方も多いかもしれませんね。

EO Talksも形式はよく似ていて、登壇者が一人で舞台に立ち、15分間、自分の物語を語ります。

ただ、語られる中身がTEDとはまったく違います。役に立つノウハウでも、華やかな成功体験でもない。語られるのは、その人がこれまで誰にも言えなかった、心の奥底にあるトラウマや葛藤です。

幼い頃に受けた虐待。ずっと隠してきた自分のセクシュアリティ。薬物依存に落ちていった日々。大きな事故、深刻なうつ。そういう「闇」を、どうやって乗り越えてきたのか。アメリカ人の仲間たちが、何百人もの前で赤裸々に語るんです。

なかでも忘れられないのが、EO仲間でもあり、大切な友人でもある、ひとりの人物の話でした。

彼は先のロサンゼルスの大火災で、10億円規模の自宅をまるごと失いました。彼が語ったのは、財産を失った絶望そのものではありません。それまで人を助ける「強い側」にいた自分が、はじめて「助けられる側」に回ったとき、どうしてもそれを受け入れられなかった。その葛藤と、そこから考え方がどう変わっていったかという話です。彼は見事に語りきりました。

成功談でも失敗談でもなく、その「裏側」が人の心を動かす

なぜ、成功談でも失敗談でもなく、「闇」の部分を語る必要があるのか。

真の起業家は、他者の成功談にはさほど興味が持てないものです。環境やタイミングが違えば、再現性は低いと本能的に知っているから。

じゃあ、失敗談はどうでしょう。起業家にとって、失敗は珍しくもなんともありません。「シカゴで会社をやって失敗しました」「2億円あった資産がゼロになりました」。この手の話は、起業家の世界ではあまりにもありふれていて、正直、誰の心も動かしません。みんな似たような修羅場をくぐってきているからです。

人の心が動くのは、その失敗の「裏側」のストーリー。表に見える出来事ではなく、その奥でどんな葛藤があり、どんなふうに這い上がってきたのか。そこを掘り下げてはじめて、聞く人の胸に届く物語になるのです。

EO Talksは、誰かに強制されるものではありません。手を挙げた人だけが登壇できる機会を得ます。しかも準備は3か月がかり。専門のコーチがつき、自分でも気づいていなかった奥底の記憶を、時間をかけて掘り起こしていくという、けっこう大変なものなんです。

参加者は誰も、ビジネスで勝ち上がるためにやっているわけではありません。登壇したところで得にはならないでしょう。ただ「自分の奥底にある何か」に気づきたくて、その場に立つんだと思います。

「自分を曝け出す」という、いちばん怖い挑戦

EO Talksの登壇者たちを見て、僕は「自分もやってみたい」と思いました。

英語でのプレゼンに不安はありません。何百人の前で話すこと自体も、それほど怖くないです。

僕が怖いのは、ただ一点だけ。「自分を曝け出すこと」に、僕がまったく慣れていないということ。

経営者は、弱さを見せない訓練を積んできた人たちです。僕もそのひとりだと言えます。常に強く、揺るがず、判断を下す。その鎧を、自分から脱いでみせる。これは、どんな修羅場より勇気がいることかもしれません。

以前、知人にこう言われました。「曝け出したら、もう怖いものはなくなりますよ」と。実際、自分を開いてみせたあとに、仕事も人間関係も一気に広がっていった人を、僕は何人も知っています。生みの苦しみの先には、きっと今とは違う景色が待っている。だったら、挑戦してみてもいいかなというのが動機です。

僕がいま立っているこの場所には、必ず理由があるはずです。表向きの履歴ではなく、その奥にある何か。それを言葉にする作業は、自分という人間を捉え直す作業でもあります。

あなたを「いまここ」に立たせている理由は、なんでしょうか。一度きりの人生で、それを言葉にして誰かに手渡せたなら、自分の歩んできた道は無駄ではなかったと思える気がします。 正直、挑戦するかどうか、まだ迷っています。でも、決めたら、またこのブログで報告しますのでご期待ください。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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