新商品ローンチ直前、右腕が「2週間で辞めます」と言ってきた

会社の最も大事な時期に、頼りにしていた人がいなくなる。

経営をしていると、こういう場面に必ず出くわします。先日、僕の右腕としてオペレーションを支えてくれていた社員が、突然「辞めたい」と言ってきました。しかも、新商品を6つ同時にローンチし、百貨店や美容専門店への新しい販路開拓も控えた、まさに勝負どころのタイミングで。

今日は、アメリカで会社を経営することのリアルと、その危機をどう乗り越えたかを書いてみます。

アメリカの「At-will雇用」という現実

引き留めはしました。「代わりがいない。今じゃないだろう」と。

でも彼の意思は固かった。今のAIブームに乗って、自分でAIの会社を立ち上げたいというのです。挑戦したい気持ちは、起業家として痛いほど分かります。

ここで日本との大きな違いが出ます。アメリカの雇用は「At-will(随意雇用)」が基本です。期間の定めのない雇用なら、会社側も従業員側も、原則いつでも自由に契約を終了できるという考え方。アメリカでは労働者の7割以上がこの形態で働いていると言われます。

日本では退職時に1〜2ヶ月の引き継ぎ期間を設けるのが一般的ですよね。実はアメリカで慣例とされる「2週間前通知」も、法律上の義務ではなくビジネスマナーに過ぎません。彼は、その2週間で辞めると言い出したのです。

2週間で何ができるか。僕はSOPを作った

2週間で引き継ぎなんてできるのか。正直、焦りました。

そこで僕がやったのは、彼や周囲が担当している業務をとことんヒアリングして、自分自身ですべてを把握すること。そして基本業務の手順を一気に書き出し、SOP(標準作業手順書)を急造しました。

SOPは、誰がやっても同じ品質・同じ結果で業務をこなせるように手順を文書化したもの。トヨタが「標準」と呼んで大切にしている考え方です。一人の頭の中にしかなかった業務を、紙の上に引っ張り出す作業でした。

これが効きました。業務が可視化されたことで、後任の優秀な人材をスムーズに採用でき、立ち上げまでこぎつけられたのです。結果的に、オペレーション体制は以前より強くなりました。

一人に依存した状態は、その人が抜けた瞬間に崩れます。逆に言えば、危機は属人化を解消する絶好の機会でもある。彼の退職は、僕に「仕組みで回す」ことの大切さを教えてくれました。

人が抜ける前提で、会社をつくる

振り返ると、右腕の退職は痛手であると同時に、会社を一段強くするきっかけになりました。

人はいつか抜けます。前向きな旅立ちであればなおさら、気持ちよく送り出したい。だからこそ大事なのは、誰かが抜けても回る仕組みをあらかじめ持っておくこと。SOPは、そのための保険のようなものだと今は感じています。

新しい担当者を迎え、オペレーションは新商品ローンチに向けて着実に動き出しました。あのとき焦って作った手順書が、これからの土台になっていく。ピンチは、準備さえあれば本当にチャンスに変わるんだなと、しみじみ思っています。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。

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