【第1回】ロサンゼルスのゴルフ場で出会った75歳の賢人が教えてくれたこと

この記事は2025年7月に公開したシリーズ記事を再編集してお届けしています。

以前このブログで、ゴルフ場での出会いが人脈づくりにつながるという話を書いたことがあります。その「ゴルフ場での出会い」が、まさか僕の人生とビジネスを大きく動かすことになるとは、当時は想像もしていませんでした。

僕がよく通っているのは、南カリフォルニアのオレンジカウンティにあるアリソビエホカントリークラブ。緑が美しく、ラウンドのたびに心が整う場所です。

ある日、いつものようにクラブを訪れた僕は、一人の初老のアメリカ人紳士とたまたま同じ組になりました。この偶然が、忘れられない出会いの始まりだったのです。

彼の名前はスコットさん。当時75歳。けれど年齢を感じさせない存在感があり、何より彼との対話の深さが、僕の心に長く残ることになりました。

何気ない会話が「美徳」の話につながった

ラウンド中の会話は、最初こそ天気やコースの状態といった軽いものでした。

ところが、ボールを追いかけてフェアウェイを一緒に歩くうちに、話は少しずつ個人的な内容へと移っていきます。やがて、日本とアメリカそれぞれの文化が大切にする「美徳」や「価値観」という、より本質的なテーマへと深まっていきました。

特に印象に残ったのが「中庸」という考え方です。極端に走らず、調和と節度を保つ。儒教にも通じるこの姿勢は、分断が進む現代だからこそ、ますます大切になっていると僕は感じています。声の大きい意見に流されず、自分の真ん中をどう保つか。経営でも人付き合いでも、結局はそこに行き着くように思うのです。

そしてスコットさんもまた、この「中庸」に通じる教えを胸に持つ人でした。話していて、価値観の根っこが似ている。そんな手応えが、ラウンドを重ねるごとに強くなっていきました。

世界を狂わせる「最大の毒」

会話の中で、僕はこんな問いを投げかけました。「信頼の拠り所が分断され、企業やブランドが共通言語になっていく。でもそれが、誰かの『正しさの押しつけ』にならないだろうか」と。

スコットさんの答えは、現代社会の本質を突くものでした。

「キリスト教にも“中庸”に通じる教えがある。それが“Temperance(節度)”だ。そして今の世の中を狂わせている最大の毒は、“Envy(妬み)”だよ。“Jealousy(やきもち)”はまだ人間らしい感情だからいい。だがEnvyは、他人を引きずり下ろして、自分がすべてを奪おうとする破壊的な欲望なんだ」

この言葉は、僕の胸を強く打ちました。

たしかに今、SNSでも政治でも職場でも、自分の意見が通らないと相手を攻撃する空気が広がっています。その根っこには、相手の成功をねたみ、引きずり下ろそうとする「Envy」の感情があるのかもしれません。

22歳の年齢差を超えて分かり合えた理由

75歳のスコットさんと、当時53歳だった僕。その差は22歳。親子ほども離れています。それでも、価値観をめぐる深い対話を通じて、僕たちはまるで旧友のように理解し合うことができました。

彼の言葉は、現代社会で「中庸」や「節度」という普遍的な価値をどう取り戻すか。そして失われた「信頼」をどう再構築し、互いに価値を生み出していくか。その問いに、大きなヒントを与えてくれたのです。

ゴルフ仲間という枠を超えたこの出会いが、僕の価値観に深く影響し、やがてビジネスの大きな転機にまでつながっていく。当時の僕は、まだそのことを知る由もありませんでした。

次回は、このスコットさんの「波乱万丈」という言葉がぴったりの人生に迫ります。


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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。