手巻き寿司を『タコス』に例えたら伝わった!相手の文化に置き換えるのが重要

アメリカ時間、7月19日の夜。ワールドカップ決勝戦、スペイン対アルゼンチンのカードを僕は自宅のテレビで観ていました。

一人ではありません。わが家のリビングに集まったのは、起業家仲間を中心に総勢13人。アメリカ人、メキシコ人、インド人と、顔ぶれはすっかり多国籍です。

わが家はパブリックビューイングに

僕がサッカー好きだと知った仲間から「じゃあ、決勝はTakeshiの家で観よう」と、急きょ決定。気づけばわが家は、パブリックビューイング兼ホームパーティーの会場になっていました。

ホストの役は、決して嫌いじゃありません。当日は、すべて僕が手作りした料理を振る舞いました。並べたメニューは、手巻き寿司、焼き鳥、真鯛とハマチのカルパッチョ、イワシの煮付けなどなど。試合の興奮が落ち着いたら、中トロや赤身、サーモン、ヒラメを追加。デザートは、バニラアイスの高級抹茶パウダーがけです。

延長戦の緊張と、リビングの温度差

肝心の決勝戦ですが、優勝候補の筆頭だったスペインが終始ボールを支配。延長後半に途中出場のフェラン・トーレスが決めた一点が決定打となって、1対0で優勝しました。スペインにとっては2010年以来、2度目の優勝です。僕はアルゼンチンを、もっと正確にいえばメッシを応援していたので、少しだけ悔しい夜になりました。

その場にいた13人のうち、画面に本気で見入っていたのは3人か4人だけ。残りは料理をつまみながら、サッカーと関係ないことをずっと喋っていました。4年に一度、サッカー世界一を決める決勝戦の裏側で、こんなに温度差があるんだなと面白かったです。

でも、僕はそれでいいと思っています。参加者全員を同じ熱量にそろえるのが、ホストの仕事ではありません。観たい人は観る。喋りたい人は喋る。その両方が同じ食卓で楽しく成り立っている状態こそ、「いい場」と言えるんじゃないでしょうか。

海外で商売するには翻訳力が必須

そういえば、手巻き寿司を海外の友人に出して食べ方の説明をするとき、はじめのうちはとても困りました。

「海苔の上にご飯を乗せて、ご飯の真ん中に好きなネタを置いて、巻いて食べる」

僕ら日本人にとって、手巻き寿司の説明は、上記以外にありえませんよね。ところがアメリカでは、この説明がビックリするぐらい伝わらないのです。

あるときから僕は、寿司として説明するのをやめました。代わりにこう言います。

「これはジャパニーズ・タコスだよ」

「海苔はトルティーヤ。ご飯とネタは具材。ワサビや柚子胡椒は、サルサソースの代わりのスパイス。自分で好きなように包んで食べる、あのタコスと同じだよ」と。

すると全員が、一瞬で「なるほど」という顔になり、迷わず手を動かし始めるのです。

どんなに美味しいごちそうも、日本風のままの説明では、良さが1ミリも伝わらないのは海外ではよくあることです。手巻き寿司をタコスに言い換えたように、相手の暮らしや習慣の中で、なじみのあるモノや言葉に翻訳すると伝わりやすくなります。

これは料理の話だけにとどまりません。海外でモノを売ること全般に通じる話だと僕は思っています。

海外に挑む日本の起業家は、「こんなに良いものなんだから、説明すればきっとわかってもらえる」と考えがちです。だから、ひたすら熱く力説します。でも現場で本当に効果的なのは、正しい説明より、相手がすでに知っているものへの翻訳なのです。

寿司をタコスと呼ぶのは、相手の入り口に立って、最初の一歩を踏み出しやすくしてあげること。「手巻き寿司の食べ方」という入り口さえ越えれば、あとは中トロやサーモンが勝手に美味しさを伝えてくれるでしょう。

想定外のことに対応できる即興力も不可欠

実はこのホームパーティーでは、想定外の出来事がありました。仲間のひとりが急に連れてきたインド人女性が、ベジタリアンだったのです。事前に「生ものが苦手な人はいる?」と確認したときは、「いない」と聞いていました。だから、ベジタリアンの人向けの食材は特に用意していなかったのです。

ベジタリアンにとっては、寿司も焼き鳥もNGです。そこで、大急ぎでキュウリと豆腐を切り、なめこを乗せて、ベジタリアン向きの日本食を作りました。彼女はとても喜んでくれて、結果的にいちばん記憶に残る一皿になった気がします。

複数人が集まるホームパーティーでは、用意したメニューが全員にハマるとは限りません。むしろ、「私、これはダメです」という人が必ず一人はいるぐらいに思っていてちょうどです。

個人的な好き嫌いもあるだろうし、アレルギーのせいで食べられない食材があるかも知れない。多民族国家のアメリカでは、宗教上の理由で食材制限のある人も結構いるものです。

これは、ビジネスの場でも同じようなことが起こり得ます。大勢の人に何かを提供する立場になったとき、品数や量の豊富さも大事ですが、少数派の要望にも対応できる柔軟さがあるかないかで相手の満足度が決まります。

パブリックビューイングばりに大好きなサッカー観戦をして、僕の手作り料理を楽しんでもらえた仲間との一日。サービスやプロダクツのあり方を改めて考えることができました。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。