昨年11月、ロサンゼルスで映画『国宝』の試写会に参加する機会がありました。監督は『フラガール』『悪人』の李相日(イ・サンイル)さん。主演は吉沢亮さんと横浜流星さん。
結論から言います。
「凄まじかった!」もう、そのひと言です。
上映時間3時間超。普通なら長く感じるはずなのに、体感は一瞬。エンドロールが流れた瞬間、思わず「もう終わり?」と声が漏れました。
でも、僕が持ち帰ったのは単なる感動だけじゃありません。この映画には、ビジネスパーソンとして、学ぶべき大切なことがいくつも詰まっていたんです。

言葉が通じないからこそ「本質」が見えた
まず度肝を抜かれたのは「映像美」でした。
歌舞伎という日本の伝統芸能を扱った作品。さぞかし日本通のスタッフが撮っているのだろうと思いきや、撮影監督はフランスで活躍するチュニジア出身の方だったんです。
現場では、おそらく日本語が通じない。でも、これが逆に魔法を生んだのかもしれません。
言葉というロジックが通用しない分、頼りになるのは「感性」のみ。役者の表情、その場の空気、張り詰めた緊張感——それらを言語フィルターを通さず、純粋な「画」として切り取っていく。
説明不要の美しさ。理屈を超えた説得力。
これって、ビジネスでも同じだと思いませんか? プレゼンで言葉を尽くしても伝わらないことがあります。逆に、言葉少なでも本質を突いた提案は、一瞬で相手の心を動かすもの。「言葉が通じないからこそ、相手の才能や本質を直感的に見抜けた」——僕はそう感じました。
リーダーは「3つの視点」を持つべし
李相日監督は今回、3つの視点からの撮影を徹底したそうです。
1つ目は「時代の移ろい」
戦後の焼け野原から、高度経済成長を経て2000年代へ。60年近い歳月の中で、歌舞伎がどう変化し、どう生き残ってきたか。マクロの視点です。
2つ目は「役者の視界」
観客席からではなく、舞台に立つ側から見た世界。花道から眺める客席、楽屋の鏡に映る自分。現場の視点です。
3つ目が「主人公・喜久雄の心」
カメラは物理的な距離を超え、彼の心の奥へ入り込んでいるかのようでした。個人の視点です。
マクロ、現場、個人。この3層を同時に見渡せるからこそ、監督は重厚な人間ドラマを作り上げることができたということ。
吉沢亮さんと横浜流星さんの演技合戦も見事でしたが、それを引き出した監督の采配には脱帽するしかありませんでした。
考えてみれば、優れた経営者やリーダーも同じことをしています。市場全体の動き(マクロ)を読みながら、現場の肌感覚(ミクロ)を忘れず、一人ひとりのメンバーの心(個人)にも目を配る。どれか一つが欠けても、チームは機能しません。
「君しかいない」——挫折は最強の伏線になる
主演の吉沢亮さんにまつわるエピソードも、胸に刺さりました。
実は彼、以前に李監督のオーディションで落選した経験があるそうです。「もうこの監督とは仕事ができないかもしれない」——そう思っていた彼のもとへ、時を経て監督自らのオファーが届きました。
「君しかいない」と。
かつての挫折が、最強の布陣を作るための伏線だったわけです。 僕自身、仕事で「これはもうダメだ」と思う瞬間が何度もありました。でも、後から振り返ると、その失敗があったからこそ次のチャンスを掴めていたりする。挫折は終わりじゃなく、未来への布石。この映画は、そのことを改めて教えてくれました。

映画づくりは、究極のスタートアップだ
映画を観終わった後、ふとビジネスパーソンとしての視点が動き出しました。
「これって、新規事業の立ち上げと同じじゃないか」と気づいたのです。
何もないところから物語(企画)を構想し、莫大な資金を調達し、最適なスタッフ・キャストを集め、現場を指揮し、世の中にプロモーションして回収する。プロデューサーを兼ねる監督は単なる映像作家じゃない。「プロジェクト全体を成功に導くCEO」なんだと。
そう考えると、『国宝』という映画は「3時間のビジネス教材」でもあるのかもしれません。
とにもかくにも、『国宝』は間違いなく、長く語り継がれる名作になるでしょう。特に、ビジネスをしている人や、何かに挑戦している人にこそ、この映画の「熱」を浴びてほしい。3時間の鑑賞後、きっとあなたも「一瞬だった」と呟いているはずです。
そして、スクリーンを離れた後も、あなたの仕事魂に静かに熱が残っていることでしょう。

