【七面鳥とトランプ】サンクスギビングに関わる、ちょっと気になる「恩赦」の話

少し季節を逃してしまいましたが、どうしても書き留めておきたくなった話題です。

アメリカで暮らしていると、11月中旬にはスーパーの棚が巨大な七面鳥で埋め尽くされる光景が毎年のこと。そう、サンクスギビング(感謝祭)の季節です。

サンクスギビングって、日本人には馴染みがありませんが、アメリカ人にとっては、とても大切な祝日です。日本でいうところのお正月とお盆を足して二で割ったようなイベントといえばイメージしやすいかも。そして、家族が集まる食卓の主役は、なんといっても丸焼きの七面鳥です。

この時期になると「恩赦(Pardon)」という言葉がニュースで飛び交うのが常。実はこの言葉は、「七面鳥の話」と「政治の話」の二つの意味で使われているので、その両方について当記事ではお話します。

アメリカらしい、11月中旬のスーパーのイメージ

サンクスギビングに七面鳥を食べる意外な理由

そもそも、どうしてアメリカ人は感謝祭に七面鳥を食べるのでしょうか。

理由は、1621年まで遡ります。イギリスからアメリカ大陸に渡ってきた移民たちは、慣れない土地での生活に苦しんでいました。そんな彼らに手を差し伸べたのが、現地の先住民たちです。

先住民たちは、森に豊富にいた七面鳥を移民たちに分け与え、彼らの命をつなぎました。七面鳥なら、牛や豚と違って特定の宗教的タブーもなく、大きな一羽をみんなで分かち合えます。まさに「感謝」を象徴するのにぴったりの食材だったわけです。

400年経った今も、先住民への感謝の儀式として続いているのですから、アメリカ人にとっての七面鳥は、日本人にとってのお雑煮のような存在と言えるかもしれません。白味噌仕立てや醤油ベース、角餅か丸餅かなど、お雑煮に家庭ごとの味があるように、ターキーにも家庭ごとに詰め物が違う「うちの味」があるところも似ています。

ホワイトハウス恒例「七面鳥の恩赦式」

さて、サンクスギビングにはもう一つ、ちょっと変わった恒例行事があります。

それが、ホワイトハウスで行われる「七面鳥の恩赦式」です。

毎年、食卓行きの運命だった七面鳥のうち、幸運な1羽か2羽が選ばれ、大統領から「恩赦」を受けます。つまり、「君は食べられなくていいよ、牧場でのんびり暮らしなさい」というお許しが出るのです。

大統領が七面鳥に向かって厳かに(でもどこかユーモラスに)「Pardon(恩赦を与える)」と宣言する。いかにもアメリカらしい、微笑ましいセレモニーです。 ただ、この「恩赦」という言葉、最近ちょっと別の文脈でも話題になっていまして……。

もう一つの「恩赦」——大統領だけが持つ特別な権限

アメリカの大統領には、連邦犯罪で有罪になった人を「恩赦」できる、つまり罪を帳消しにできる権限があります。憲法で認められた、大統領だけの特権です。

これが今、注目を集めています。

2021年1月6日。2020年のアメリカ大統領選の結果に反発したトランプ支持者の一部が、連邦議会議事堂に乱入して、死者まで出る大事件となりました。このとき暴力行為や違法行為に関与したとみなされた人々のうち、1500人以上が逮捕・起訴されています。

トランプ氏は2025年1月の大統領就任後、この議事堂襲撃事件の関係者に対して大規模な恩赦を実行しました。また、機密文書の持ち出しや選挙結果を覆そうとした疑惑など、トランプ氏自身が抱える複数の刑事事件に関わって有罪判決を受けた側近たちへの恩赦も取り沙汰されています。

法律的には、大統領にはその権限がある。でも、「自分の支持者だから」「自分を守ってくれたから」という理由で恩赦が使われるとしたら、それは制度の想定した使い方なのだろうか。そんな議論がアメリカでは続いています。

同じ言葉が意味する二つの風景

大統領が七面鳥を「恩赦」する、和やかなセレモニー

議事堂襲撃に関わった支持者たちへの「恩赦」

同じ時期に、同じ「Pardon!(恩赦)」という言葉が、まったく異なる重みを持ってニュースで語られているのです。

アメリカに暮らしていると、この対比がなんとも不思議に感じられます。片方は笑顔で見ていられるのに、もう片方はどう受け止めていいのか、正直よくわかりません。

ただ、「恩赦」という一つの言葉が持つ振れ幅の大きさに、アメリカという国の複雑さが映し出されているような気がしています。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。