長らく海外に住んでいると、時々無性に日本の芸術や文化に触れたくなることがあります。先日、まさにそんな想いを満たしてくれる、奇跡のような夜を体験しました。
あの世界的なピアニスト、辻井伸行さんのコンサートが、僕の住む街のすぐ近くで開催されたのです。今回は、その感動のコンサートの様子を、現地の雰囲気とともにお届けします。(※コンサートは2025年11月の開催)
治安の良い街に響き渡った奇跡の音色
コンサート会場は、カリフォルニア州アーバイン市の隣、コスタメサにある「セガーストロム芸術センター」。この辺りは全米でも屈指の治安の良さを誇るエリアで、落ち着いた雰囲気の中で芸術鑑賞ができる最高のロケーションです。
会場に足を踏み入れると、観客の多くが日本人や日系人の方々で、どこかアットホームな空気が流れていました。すでに会場の8割ほどが埋まっており、開演を心待ちにする人々の熱気でいっぱいでした。
耳で記憶した無数の音符が紡ぐ、情熱と物語
プログラムは、ベートーヴェンの「熱情」ソナタから始まりました。鍵盤の上を辻井さんの指が舞うたびに、激しくも美しいメロディがホールに響き渡ります。力強いタッチから繊細な弱音まで、ダイナミックな表現力に圧倒されました。
続いては、クリスマスシーズンにぴったりのチャイコフスキー「くるみ割り人形」。誰もが知る名曲が、辻井さんの手によって新たな生命を吹き込まれたかのように、きらびやかに奏でられました。
何より心を打たれたのは、すべて耳で記憶した膨大な楽譜を、これほど完璧に、そして豊かな感情表現とともに演奏している姿でした。視覚に頼ることなく、ただ己の耳と感性だけを頼りに音楽を紡ぎ出す姿は、まさに圧巻の一言。一音一音に込められた音楽への深い情熱を感じ、思わず息を呑みました。
鳴りやまぬ拍手に応えた感動のアンコール
プログラムが終了しても、観客の熱狂は収まらず、拍手が鳴りやみません。その熱い想いに応えるように、辻井さんはなんと3回もアンコールを披露してくれました。
最初は、ベートーヴェンの「月光」の静謐(せいひつ)な調べ。次に、彼の名を一躍世界に知らしめたリストの超絶技巧曲「ラ・カンパネラ」です。彼の指が鍵盤の上を駆け巡る様子は、まるで音の魔法を見ているようでした。
最後に奏でられたのは、彼自身のオリジナル曲。優しい旋律が会場全体を深い感動で満たし、観客は皆、幸福感に満ちた表情を浮かべていました。

辻井伸行氏の演奏から学んだ「追求する」ことの価値
今回のコンサートは、単に美しい音楽を聴くという体験以上に、深い学びを僕にもたらしてくれました。
一つの才能を信じ、とことんまで追求し続けること。それがどれほど尊く、そして多くの人々に感動と勇気を与えることができるのか。辻井伸行さんの姿は、そのことを雄弁に物語っていました。
カリフォルニアの夜空の下で聴いた奇跡のピアノは、心の奥深くに刻まれ、明日への大きな活力を与えてくれました。音楽の力と人間の可能性の素晴らしさを改めて感じさせてくれた辻井さんに、心からの感謝を送りたいです。

