グローバル創作エンジンの中で生き残る─AI時代のIP戦略論【連載1/3】

IP(知的財産/Intellectual Property)とは
キャラクター、作品、ブランドなど、創作物に関する権利の総称です。例えば、マリオやピカチュウ、鬼滅の刃の登場人物など、企業が保有する創作物の権利を指します。これらは著作権や商標権によって法的に保護され、企業にとって重要な資産となっています。

2025年も残すところ、あとわずか。

実は、2026年の初頭に、大手出版社のIP(知的財産)担当の偉い方とお話しする機会をいただきました。せっかくなので、以前から温めていた「AIと知的財産」についての考えを投げてみようと思っています。

ただ、いきなり口頭で全部伝えるのは難しいので、予習がてら、僕の頭の中をブログで整理しておくことにしました。

創作の民主化を超えた激変

まず、現状の確認から始めましょう。今、僕たちの目の前で起きているのは、「創作の民主化」なんて表現では生ぬるいほどの劇的な変化です。

OpenAIの動画生成AI「Sora」や、Googleの「Veo」を見たことがありますか。プロのスタジオや高価な機材、特殊なスキルがなくても、誰もがハイクオリティな映像を創れるようになっているのです。

画像生成の世界でも同様の革命が起きています。Googleの「Nano Banana Pro」やOpenAIの「GPT Image 1.5」は、プロ品質のビジュアルを瞬時に生成し、緻密な編集や加工を可能にしました。

それらの作品は、YouTubeやTikTok、XやInstagramなどの各種SNSを通じて、瞬時に世界中へ拡散されているのです。「生成AI」と「ソーシャルメディア」の融合によって、世界規模の巨大な「創作エンジン」が誕生したと言っていいでしょう。

これまでのIPコンテンツは「公式が作って、ファンが消費する」という一方通行のものでした。でも今は違います。IPは管理された場所からリリースされるだけでなく、インターネットという公共空間で、ファンによって生成され、改変され、広まっていく、「生きて、勝手に大きくなる存在」になりつつあります。

ファン創作」という止められない波

今の創作界隈の状況は、IPを持つ企業(IPホルダー)にとって頭の痛い問題なのは間違いありません。

「勝手にうちのキャラを使わないでくれ」と言いたくても、AIの進化でファンの創作クオリティが爆上がりして、もはや物理的に止められないレベルに来ています。

問題は深刻です。ブランドのイメージとかけ離れた文脈でキャラクターが使われたり、最悪の場合、暴力的・性的な表現に巻き込まれたりするリスク(ブランド毀損)があります。また、著作権で守られているはずの作品が、AIの学習データとして無断で使われることへの懸念も尽きません。

だからといって、ファンに「創るな!」と言うのは、現代において「ファンをやめろ!」と言うのに等しい側面もあります。ファンによる二次創作(UGC)がコンテンツの人気を支えているのも事実だからです。

IPは「静的な宝物」から「管理された遊び場」へ

静的な防御から動的な統治へ

「IPを守る」という意味が、ここに来て完全に変わった感があります。

これまでは「コピーを防ぐ」「オリジナリティを守る」が正義でした。しかし、誰もがクリエイターになれる「グローバル創作エンジン」の中では、単に壁を作って閉じこもるだけでは、IPの熱量は下がってしまいます。

IPは「静的な宝物」ではなく、継続的に再生成される「資産」です。完全に禁止するのではなく、どうやってコントロールするか。どうやって「無秩序なカオス」ではなく、「管理された遊び場」をファンに提供できるか。それが、これからのIP戦略の最大の論点になると僕は考えています。

次回は、アメリカの巨大企業たちがどう動いているのか、具体的な事例を見ながら掘り下げていきます。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。