監視機構が消えた!OIDO閉鎖と、自由の国アメリカに残された問い(ICE最新動向Vol.3)

これまで2回にわたって、ICEがどのように米国最大の法執行機関になったか、その構造(第1回)と、収容施設やHyundai摘発という現場の動き(第2回)を追いかけてきました。

最終回となる今回は、その「裏側」で同時に進んでいる、もう一つの変化について書きます。「監視機構の解体」です。

2026年5月5日、ICEを内側から見張るために議会が設置した組織が、静かに閉鎖されました。

内部監視機構OIDOが、永久閉鎖

閉鎖されたのは、Office of the Immigration Detention Ombudsman(OIDO、移民収容オンブズマン事務所)。聞き慣れない名前だと思いますが、これはICEの暴走を内側から止めるための、数少ない仕組みでした。

OIDOが生まれたのは2019年。第1期トランプ政権下で起きた収容者の死亡や家族の分離といった事件を受けて、議会が超党派で立ち上げた監視機関です。ICEやCBP(税関・国境警備局)からは独立した立場で、収容者の苦情を受け付け、施設を視察し、虐待や医療放置がないかを調査する。それが、この組織の任務でした。

DHS(国土安全保障省)は5月5日、このOIDOを閉鎖したと正式に認めました。理由は「議会の予算措置が途切れたため」。ところが、実際に議会が可決した予算法案には、OIDOを閉鎖せよとはどこにも書かれていません。それどころかOIDOは、2025年初めには100人ほどいた人員が、2026年初めには5人にまで削られていました。

形だけ残して中身を空っぽにし、最後に「予算切れ」を口実に正式に畳む。そういう流れに見えます。

2026年の最初の4か月で、18人が収容中に死亡

OIDOの閉鎖がなぜこれほど問題なのか。それは、まさに今、ICEの収容下で亡くなる人が急増しているからです。

報道によれば、2026年の最初の4か月だけで、少なくとも18人がICEの収容中に死亡しました。前年(2025年)は通年で31人。これでも、過去20年で最多の数字でした。第2期トランプ政権の発足から数えると、亡くなった人は累計で49人にのぼります。

内訳も深刻です。2026年の18人のうち、5人が「自殺と推定」と分類されています。亡くなった人のなかには、かつて米軍とともにアフガニスタンで働いていた現地協力者や、メキシコ人の10代の少年も含まれていました。

DHSは「収容する人数が増えたのだから、死亡数が増えるのも当然だ」と説明しています。けれども、収容人数が約2倍に増えたのに対して、死亡数は数倍に跳ね上がっている。これは人数の増加だけでは説明がつかない、というのが人権団体や医療研究者の見方です。

実際、医学誌 JAMA Network Open に2025年1月に掲載された研究(ハーバード大学医学部とUCバークレー大学院政策大学院の共同研究)は、ICEの収容期間が6か月以上に及ぶと、健康の悪化や精神疾患、PTSDの発症リスクが有意に高まる、と報告しています。長期の収容そのものが、人の心身を蝕んでいるのです。

議員の視察を阻むDHS、それを止める司法

監視を弱める動きは、OIDOの閉鎖だけではありません。

2025年6月、ICEは「議員が施設を視察するなら、7日前までに事前通知をせよ」という新ルールを通達しました。本来、連邦法は議員に対して、通知なしでの視察権限を保障しています。つまり、明らかに法律に反する内部ルールです。

これに対して、2025年12月17日、連邦地裁の Jia Cobb 判事が差し止め命令を出しました。ところが2026年1月8日、Noem国土安全保障長官は、ほぼ同じ内容のルールを「秘密裏に」復活させます。

その直後のことでした。ミネアポリスで連邦捜査官が米国市民の Renee Good 氏を射殺するという事件が起き、議員らが現地のICE施設に向かいました。ところが、有効な裁判所命令を手にしていたにもかかわらず、彼らは立ち入りを拒否されたのです。

事態を受けて3月2日、Cobb判事はあらためて議員の「予告なし視察」の権限を認める判決を出しました。さらに5月8日には、連邦控訴裁判所が3対0の全員一致でこの判決を支持。当面、議員の視察権は守られています。

一方で、司法からはもっと大きな判断も出ました。2026年4月28日、第2巡回区控訴裁判所が下した Cunha v. Freden 判決です。

この裁判の当事者であるCunha氏は、ブラジル出身で、20年以上アメリカに住み、家族と住宅を持ち、亡命を申請して労働許可も得ていた人物でした。ところが2025年9月、ICEに逮捕され、「保釈なしの強制収容」の対象とされてしまいます。

控訴裁判所は3対0の全員一致で、こうした長期居住者までも一律に「入国申請者」とみなして無保釈で拘束するICEの解釈を退け、彼に保釈審問を受ける権利を認めました。

ただし、第5巡回区と第8巡回区では逆の判決が出ています。そのため、この問題は最終的に最高裁が判断することになる見通しです。

行政府がICEを膨張させ、立法府が監視を弱め、司法府がそこに歯止めをかけようとする。三つの権力がそれぞれバラバラの方向を向いているのが、今のアメリカの姿です。

自由の国アメリカが、自らに問うていること

僕は南カリフォルニアでビジネスをしながら、この一連の動きを、毎日のようにニュースで目にしています。

経営者として組織を見てきた経験から言うと、組織が大きくなる過程で「監視機能」を弱めると何が起きるかは、だいたい想像がつきます。短期的には、たしかに動きは速くなる。けれども、不正や事故が表に出てこない仕組みが固定化していく。そして一度そうなってしまうと、内部から立て直すのは極めて難しくなるのです。

今ICEで起きているのは、まさにそれだと思います。予算は4年分が確保され、職員は12,000人が新たに雇われ、施設は7万人を収容する規模にまで膨らみました。そして、その動きを内側から止めるはずの組織が、消されてしまった。

「自由の国アメリカ」が、自分自身に重い問いを突きつけている。今は、そんな時期に差し掛かっているように思えてなりません。

日本でも「日本ファースト」を掲げる動きが議席を伸ばしています。アメリカで起きていることは、太平洋を渡る速さで日本にも届く。僕はそう感じています。

無関心でいないこと。世界で起きていることを、自分の生活と地続きのものとして考えてみること。この連載を通してお伝えしたかったのは、結局のところ、そこに尽きます。

3回にわたってお読みいただき、ありがとうございました。


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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。