50億ドルのファンドと「ガザ・リゾート構想」の衝撃

前回、ジャレッド・クシュナー氏がトランプ政権誕生の立役者だったことをお話ししました。でも、彼の本当の恐ろしさは、政界から離れた今、より一層発揮されています。

クシュナー氏は、ホワイトハウスを去った直後、驚くべきスピードで巨額の資金を集め、投資家へと転身しました。

その額、なんと約50億ドル(約7,500億円)。

さらに最近では、紛争地であるガザ地区に対して「リゾート開発」の可能性を示唆するなど、常人には理解しがたい発想を披露しています。そこで今回は、ビジネスマンとしてのクシュナー氏の野望に迫ります。

中東から50億ドルを引き出した「政治力」

トランプ氏が選挙に敗れた直後の2021年、クシュナー氏は「アフィニティ・パートナーズ」という投資ファンドを設立しました。

驚くべきは、その資金調達先です。サウジアラビアの政府系ファンド(PIF)やカタールなどから、瞬く間に資金を集めました。

なぜこれほどスムーズに資金が集まったのか。それは彼がトランプ政権時代に成し遂げた「アブラハム合意」の実績があるからです。イスラエルとアラブ諸国の国交正常化を仲介した彼は、ユダヤ教徒でありながら、アラブの王族たちと太いパイプを築きました。

彼は政治家としての4年間を、自身のビジネスネットワーク構築のために最大限利用したとも言えます。父親譲りの不動産ビジネスの才能と、ホワイトハウスで培った国際的な人脈。この2つを掛け合わせて、世界でも類を見ない規模のファンドを運用する投資家へと変貌を遂げたのです。

ガザ地区を「リビエラ」にする冷徹な構想

クシュナー氏のビジネスマンとしての冷徹さが最も現れているのが、パレスチナ自治区ガザに対する発言です。ハーバード大学でのインタビューなどで、彼はガザ地区の海岸沿い(ウォーターフロント)の不動産価値に言及しました。

彼の考えはこうです。

「ガザの住民を退避させ、更地にしてリゾート開発をすれば素晴らしい価値が生まれる」

彼はこれを「ガザ・リビエラ構想」のように捉えている節があります。紛争や人道的な問題が渦巻く地域を、純粋に「手つかずの最高級ビーチリゾート用地」として見ているのです。

ゼロからスクラップ・アンド・ビルドを行い、富裕層向けのリゾートを作る。不動産開発業者としての視点だけで見れば合理的かもしれません。しかし、政治的な背景を考えるとあまりに大胆で、ある意味「モンスター」のような発想です。

そして恐ろしいのは、彼にはそれを実現させるだけの人脈と資金力があるという点です。

44歳の野心家が描く未来

ジャレッド・クシュナー氏は1981年生まれ。まだ44歳という若さです。トランプ氏の義理の息子という立場を利用し、政界で頂点を見た後、今度は金融と不動産の世界で巨万の富を築こうとしています。

彼は現在、第2次トランプ政権の閣僚入りなどはしていません。それは「政治よりも金儲け」の方が、今の彼にとって魅力的だからとも言えます。あるいは、政治的な制約を受けずに自由に動ける立場のほうが、中東でのビジネスやガザの計画を進めやすいと考えているのかも知れません。

クシュナー氏の行動原理は非常にシンプル

価値のないところを更地にし、価値あるものを作り変える

それが選挙戦では「既存政治の破壊とトランプ政権の樹立」であり、現在は「紛争地の再開発」に向いています。

政治力を背景に巨額のオイルマネーを動かす投資家へと進化したクシュナー氏。ガザ地区をリゾートにするという構想は、彼の倫理観を超越したビジネスセンスを象徴しています。 次回は、民主党だけでなくトランプ支持者からも嫌われるクシュナー氏の「意外な正体」に迫ります。

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この記事を書いた人

総合商社で中近東および中南米向けの機械輸出ビジネスに従事した後、大手コンサルティングファームにてディレクターとして日本企業および欧米企業のグローバルプロジェクトを担当。2012年よりロサンゼルスに活動拠点を移し、2人の仲間とともに「Exa Innovation Studio(EIS)」を創業。

現在は、EISで日米欧の新規事業開発に取り組むと同時に、2020年に創業した日本特有の天然素材と道具を組み合わせたウェルネスブランド「Shikohin」および新規事業育成ファンド「E-studio」の経営に従事 。

起業家の世界的ネットワークであるEntrepreneurs’ Organization(EO)のロサンゼルスおよびラテンアメリカ・チャプターのメンバーとして、多くの若手起業家のコーチングに取り組む。2016年よりアクセラレーター「Founders Boost」でメンターを務め、多くのスタートアップのアドバイザーを務める。

慶應義塾大学環境情報学部卒業。